ランスとイヴァン
綺麗な新緑の芝生に、整然と蒼い椅子の並んだ観客席。
澄んだ空には照明灯がそびえ、近くには近代的なトレーニングセンターが併設してある。
「心配しなくていい。これは、ただの練習試合だ」
ボクの隣には、熱田 折火(あつた オリビ)さんがユニホーム姿で立っている。
後ろを見ると、フランスから帰化したベルナール フィツ べリックさんの連れて来た、ドミニク ヴォーバンさん、アベル ルイ ヴィラールさん、アルセーヌ ド ヴァンドームさんの3人のフランス人スターが、顔を揃えていた。
みんなこの間まで、テレビで見ていた選手ばかりだ。
どうしてボクはこんなスゴいチームで、10番を付けているんだ?
「この状況で顔色1つ変えないなんて、キミも凄い肝っ玉をしてるじゃないか」
ボクの顔を見て、判断するオリビさん。
……ああ、違うんだ。
緊張して顔に出ないだけで、メチャクチャパニクってるんだよォ!
すると相手コートの方から、同じ蒼いユニホームを着た2人の選手が、こっちに向ってやって来た。
デイフェンスラインは揃っているから、中盤か前(フォワード)の選手だろう。
「キミが、ロランか。名古屋での記者会見では、逃げ出したそうだな」
そのウチの1人が、こちらを睨みながら威圧的な態度で言った。
ユニホームの胸の背番号は11だから、たぶんフォワードなのだろう。
ボクより少し背が高く、髪も少し長めの金髪だケド、サッカー選手としては一般的なのかも知れない。
「おおかた、怖気づいてし逃げ出したのだろう。いくら、ウチの前身となったチームの中心選手だからと言って、そんな甘えはプロの世界では通用せんぞ」
「スミマセン、ランスさん。ロランは体調が、少しすぐれなかったんです」
「体調管理が出来んとは、それこそプロ失格だろう」
「プロのサッカー選手にとって、何より優先されるのは試合での結果です。記者会見ではありません」
穏やかな口調で、オリビさんが反論した。
「プロの世界も知らんクセに、生意気を言う」
ランスさんの顔が、急に険しくなる。
フォローしてくれるのは有難いケド、ケンカになるのは無しでお願い!
「オイオイ、チームメイト同士でいがみ合うのは、止せって。ランスも、大人げないだろ」
ランスさんより少し背の高い、背番号9を付けた選手が言った。
「なんだ、イヴァン。お前の同類が出来て、嬉しいのか?」
「なんだとォ!?」
もう1人は、イヴァンさんらしい。
茶色い髪は、やたらとボリューミーで、まるでライオンのタテガミみたいだ。
手足を見ると、野性的な筋肉が付いていた。
「イヴァン、お前は、昔ながらの嗅覚で勝負する、古い(オールド)タイプのフォワードだ」
「ハアッ、嗅覚で戦うフォワードなんざ、世界にだっていくらでも居るだろ!」
「確かにな。だが、世界で戦うヤツらと、お前とでは決定的に違うモノがある」
「なにを、偉そうに。一体、なにがどう違うってんだ!」
「頭脳さ。お前去年、何度オフサイドを取られた?」
「……なっ、それは……」
言葉を詰まらせる、イヴァンさん。
「戦術理解度が低いから、戻り遅れてオフサイドを取られる。相手ディフェンスのオフサイド・トラップにも、容易にかかってしまう」
「そんなモン、当然だろうが。オフサイド・ラインにビビッて、下がってたら意味が無ェだろ」
「確かに去年、お前が取られたオフサイドは、1試合5回以上……」
「オフサイドが怖くて、フォワードがやってられっか!」
「その度に、お前の所属チームは、チャンスを潰しているんだ」
ボクとオリビの前で、いがみ合う2人のフォワード。
「ヤレヤレだろ。ランスとイヴァン……ウチのツートップは、とてつもなく犬猿の仲なんだ」
どうやらエトワールアンフィニーSHIZUOKAも、様々な問題を抱えているらしい。
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