ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・21話

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地球の人口

 黒い雨が降りしきる空港に、着地するフライトユニット。
大きなランディングギアが水飛沫きを巻き上げ、滑走路を滑るように走行する。

「ここが、1000年後の東京……」
 日本と呼ばれた国も、東京と呼ばれる都市も、すでに無くなっているのは解っていた。
けれども、思わず呟いてしまう。

「想像よりも、寂びれた場所でしょう?」
「そ、そうですね。ここがあの東京とは、到底思えない」

 地方暮らしの田舎民としては、何度かしか行ったコトの無い1000年前の日本の首都、東京。
それでも、僅かばかりの経験のいずれもが、溢れんばかりの活気と洗練された空気に威圧され、そして何より人の多さに驚かずには、いられない場所だった。

「目的地は、あの建物です。まずはクリーンハンガーにて、この忌まわしき黒い雨を洗い流しましょう」
「……了解です」

 ゼーレシオンと、シャラー・アダドは、フライトユニットから立ち上がる。
2体の巨人は、放射能や化学物質を含んだ黒い雨に塗れていた。

「1000年が経過したからと言って、ここまで変ってしまうのか。宇宙からみたときは、綺麗な蒼い惑星だったのに……」

「地球に最も似た惑星である金星も、美しい外観に反して二酸化炭素の大気と、硫酸の雲で構成されてますからね。遠くから見ても、小さな問題には気付かないモノです」
 黒乃は、論理的に答える。

「そこは、1000年前と変わってないな」
「なんの話しです?」
「い、いえ。なんでも無いです」

 無駄話をしているウチに、ゼーレシオンとシャラー・アダドはハンガーへと入った。
天井から光のシャワーが降り注いで、2機のサブスタンサーに纏わり付いた汚染物質を洗い流す。

「まるで、水泳の授業後みたいだ。身体の大きさは別として」
「次に、ナノ・マシーンによる洗浄を行います」
「かなり念入りに、洗浄をするんですね?」

「はい。残念ですがもし外で、サブスタンサーのコックピットハッチを開けでもすれば、即死は免れないでしょう」
「そこまで汚染されてしまっているんですか、地球の大気は……」

 念入りに洗浄されたゼーレシオンから、やっとのコトで抜け出すと、時澤 黒乃もシャラー・アダドからワイヤーで降下しているのが見えた。

 格納庫は、他にもサブスタンサーが何機か並んではいたが、人影も無く静寂に包まれている。
誰かしらの出迎えでもあると予想したが、それすらも無かった。

「宇宙斗艦長。ここでのわたくしは、あくまで時澤 黒乃でお願い致します」
「りょ、了解しました」
 ミネルヴァさんの気迫に逆らえず、ボクは頷く。

「それにしても、ここの設備は火星に比べても旧式に見えますね」
 歩き始めた黒乃の横に速足で並んで、語りかけた。

 格納庫の中も、黒い雨の影響かいたるところが赤く錆びている。
通路に出てからもあちこちに埃が積もっていて、掃除すら行き届いていない様子が伺えた。

「ええ、宇宙斗艦長の観察眼は、正しいと思います。火星であれば、この程度の小芝居など、とうに見破られているでしょうから」

「小芝居……ですか。でしたら、もっと打ち解けた感じでも、良いってコトですか?」
「え、ええ……ですがわたくしは、フランクな振る舞いがどうも苦手で……」

「じゃあせめて、名前で呼び合いましょう。構わない、黒乃?」
「そ、そうですね。それくらいなら、大丈夫です、宇宙斗」

 時澤 黒乃とそっくりな顔をした女性は、頬を少しだけ染めながら了承した。

「それにしても、この基地に降りて来てから、人の姿を見かけないね」
「ええ、この基地に残っている人間は、現在4名ホドでしょうか。いずれも、地球に未練がある老人ばかりです」

「老人が、4人だけ……どうして、そんなコトに!?」
「今の地球の現状を見れば、お解りいただけるでしょう。大気も大地も海も、放射能や科学物質に汚染され、温暖化によるガスの影響で、ごく僅かな晴れた日でさえ、ボンヤリとしか太陽が見えないのです」

「そ、それじゃあ、現在の地球の総人口はどれくらいなんだ?」
「およそ、1億です」

 ボクはその数字の少なさに、とてつもない衝撃を受けた。

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