東海・中部リーグ
「あ、なに言ってんだ、一馬?」
「どう見たって、ウチのユニホームじゃ無いだろうが!」
クロとピンク頭が、ロランの失言にツッコミを入れる。
「……そ、そそ、そうだよな。イヤ、ただの勘違いだった」
慌てて取り繕う、ロラン。
「なあ、今日の一馬、どこか変じゃないか?」
「確かにな。普段より流ちょうに喋るし、アワアワして無いっつーか?」
デッドエンド・ボーイズの2人のドリブラーが、ロランを訝しげに見た。
「た、多少は慣れて来たからな。そ、それより、大事な記者会見なんだろ?」
話題を変えて、なるべく会話に加わらないように、会話の行く末を見守ろう。
「そうだった。なあ、キャプテン。これ、なんの記者会見なんだ?」
「つか、このオッサン、見覚えがあんな?」
「記者会見で答えているのは、クラウド東京スカ―フェイスのオーナーでもある、日高 成瓢(ひだか せいひょう)だ。他に芸能事務所の、シャイ・ニー事務所も持っているやり手の人物でな」
「そっかそっか、どこかで見た記憶があると思えばこのオッサン、俳優の日高 成瓢か」
「でもよ、クラウド東京って東京のチームだろ。ウチと、関係なくないか?」
「確かにZeリーグ1部の東京と、東海・中部の地域リーグに加盟したばかりのウチに、接点はない」
「ですが今回の会見で発表されたのは、東京スカーフェイスについてでは無いのですよ」
「それじゃあ、オーナーの周りに並んでるヤツら、一体誰なんだ?」
「まだ解らないのかよ、クロ。新たに発表されたチームの、メンバーに決まってんだろ」
ピンク頭が、クロナミをバカにするように言った。
「正解だ、紅華」
キャプテンと呼ばれたヤツが、頷く。
どうやらピンク頭の名前は、クレハナというらしい。
「ライバルチームってコトは、コイツらも東海・中部リーグに所属するのか。それにしちゃあ、ユニホームがバラバラじゃね?」
「とうぜんだ、紅華。今回発表されたのは、3チームだからな」
応接室に入って来た男が、ニヤッと笑う。
「うわあ、なんで倉崎 世叛がここに!?」
「マジっスか、倉崎さん!」
ロランと紅華が、同時に立ち上がって叫んだ。
「マジだが……一馬。お前、反応がおかしくなかったか?」
倉崎 世叛が、疑いの眼差しをロランに向ける。
「き、気のせいですよ。それより、3チームってホントですか?」
「あ、ああ。お前たちが来る前に、日高オーナーによって発表されたよ」
なんとか、誤魔化せたか?
「一気に3チームも加入させちまうなんて、ハンパねェな」
「それで倉崎さん。オレさまたちのライバルになるのは、どのチームなんだ?」
「全部だ」
「ぜ、全部って、3チーム全部!?」
「マ、マジかよ……」
薄型テレビを凝視する、クレハナとクロナミ。
「今回発表されたチームは、静岡を本拠地とするエトワールアンフィニーSHIZUOKA、三重を本拠地とするフルミネスパーダMIE、岐阜をを本拠地とする1FC(エルストエフツェー)ウィッセンシャフトGIFUの3チームだ」
「静岡、三重、岐阜……どれも、東海・中部リーグの範囲内じゃねェか!」
「それじゃあ今年は、オレさまたちも含めて4チームが、地域リーグに加入するコトになったのかよ」
「イヤ、黒浪。今回は発表されなかったが、名古屋にもう1チーム加入させるつもりらしい」
「ど、どんだけ一気に、加入させる気だ!」
「こんな会見まで開くってコトは、どうせ巨大資本で選手を集める気だろうぜ」
応接室に集まった全員が、テレビに釘付けとなる。
『なるホド。今回は地域リーグの登録チーム拡大に伴い、特別に5チームが追加されたのですね』
『ええ、その通りです。我々とあと1チームも、運が良かったのですよ』
記者の質問に答える、日高オーナー。
「その幸運な1チームが、ウチっでワケだ」
「でも倉崎さん。幸運って言えるのか?」
「2年以上は、上のリーグに上がれないんだぜ」
『日高オーナーの立ち上げる4チームすべてが、東海・中部の地域リーグに所属するコトになるハズですが、あえてそうされたのですか?』
『狙ったワケではありませんが、シャイ・ニーグループの関連施設が、東海・中部圏に集中していたのです。本来であれば、全チームが1年以内に地域リーグの1部に上って貰いたかったのですが……』
『最高でも上位2チームだけしか、上のリーグに進出できませんからね』
『ええ、規約ですから、仕方がありません。ですが、2チームは確実に上げてみせますよ』
「イヤ、悪いが今年1部に上がるのは、最高で1チームだけだ」
「な、何言ってんすか、倉崎さん」
「今年、上に上がるのは、我がデッドエンド・ボーイズだからな」
倉崎 世叛が、不敵に微笑んだ。
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