ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第35話

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高度経済成長の時代

「男子校の先生が、ヤンキーが殆どの男子生徒たちに語った自慢話です。どこまで本当かは、確証が持てませんがね」
 バーテンダーは、友人が飲み終わったグラスを洗いながら言った。

「でも、けっこう本当なんじゃないか。そう言った話ってさ。男同士じゃなきゃ、語れないんだよな」
「実際には虐殺の内容も、細かく語ってましたからね。レディの気分を害するコト請け合いな話です」

「それじゃあ、鳴丘先生にも?」
「アハハ、もっての外ですよ」
 初老の紳士は、上品に笑った。

「それにしても、戦争ってのは目まぐるしく兵器を進化させたんだな。確かに今の時代の進化スピードなんか、比べるべくも無いか」

「良くも悪くもではあるが、核開発の技術も、今は原子力発電所に転用されているしな」
「インターネットだって、元は軍用に開発された技術だって、聞いたコトがあるぜ」
 友人も、すっかり元気を取り戻していた。

「マスターは、戦争自体は経験されてないんですよね?」
「ええ。偉そうに語ってしまいましたが、ギリギリ戦後生まれです。ドン底だった日本が、経済発展を遂げる姿を見て来た世代ですよ」

「どんな時代だったんスか?」
「華やかな、時代でした。人々は活気に溢れ、誰もが成功する可能性のあった時代です。日本を代表する名だたる企業が誕生し、成長して世界へと羽ばたいて行きました」

「へえ、それを聞くと、なんだか羨ましいな」
「当時は光と闇が、今よりもはっきりしていたと思いますよ。自己破産の制度も、無い頃です。成功する者の影で、事業に失敗し破産して一家心中なんて話も、けっこう聞きましたね」

「うげェ、やっぱ今のが良いかも」
「そうでしょうとも。わたしの子供の頃は、インターネットどころかテレビすらありませんでした」
「たまに聞く話ですね」

「ですが、無かったモノを次々に、手に入れて行った時代でもあるんです」
「へぇ、どんな感じで?」

「白黒テレビ、冷蔵庫、洗濯機に始まり、カラーテレビ、掃除機、電卓……」
「え、電卓もなんスか?」
「ええ、電卓も当時は、進入社員の初任給くらいはしましたから」

「マジかよ。今じゃ100円ショップで、買えちゃうのに」
「他にも、今より高かったモノはあるんですか?」

「出始めは、なんでも高かったと記憶してます。例えばそうですな。タイプライター、ワープロ、パソコンなどは普通に高かった。クーラーや電子レンジも、当初はかなり高かったイメージがありますね」

「パソコンなら、聞いたコトあるぜ。昔は今より遥かに性能が低いパソコンが、100万くらいして、医者にしか買えないなんて言われてたんだぞ」
「お前が、威張るな」

「他にも、ラジカセ、CD、ビデオ、DVDなど、新しい規格が次々に考案され、ゲーム機なんかも、新商品が続々と発売されては、廃れていきましたよ。1年どころか半年と経たずに、『古いモノ』扱いのレッテルを、貼られましたからね」

「マ、マジかよ」
「そう考えると、今より昔の方が、時代の移り変わりが激しかったんですね」
 生まれる前の時代の変遷を聞き、ボクたちはしばらく言葉を失った。

「なにをそんなに、慌てていたんでしょうねェ」
 ジャズの、ゆっくりとしたトランペットが店内に響く。
初老のバーテンダーは、僅かにほほ笑んでいた。

「おジャマしますわ。本日、こちらのお店を撮影に……アラ?」
「せ、先生。どうしてここに!?」
 店の中に、地味な服を着た双子姉妹が入って来た。

「アロアとメロエか。2人とも、今のところまともな恰好をしてるな」
「ま、まさか先生。バーで撮影と聞いて、監視に来たのでは!?」
「こ、これはあくまで、プロモビデオの撮影であってですね……」

 ムーディーな雰囲気のバーが、急にかしましく染まった。

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