ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第29話

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セレブな地下駐車場

「いやあ、思った以上に順調だな。これで残りは、あと1組。ウェヌス・アキダリアの双子姉妹か」
 前を歩く友人が、満足げな顔を向けがら言った。

「だが、件(くだん)のもう1組は、夜にバーでの撮影だ。未成年だと言うのに、まったく困ったモノだが、随分と時間が空いてしまうな」

「だったらさ、天空教室に行ってみようぜ」
「どうしてだ。天空教室に、お前のクライアントは残ってないぞ?」
 ボクはサングラスを少し上げ、友人の表情を読んだ。

「アイツらが、普段暮らしてる部屋でも見たいってのか。だったら厳しいと……」
「そっか。まあそりゃそうだよな。淡い期待はしていたが、年ごろの少女たちが群れる部屋に入れるとまでは思ってないさ」

「そうか……」
 授業中に疲れて眠ってしまった少女たちを寝室に運び入れ、後で彼女たちからオオ目玉を喰らったボクは、少し気マズい感じになった。

「じゃあ、アポ取ってみるから待ってろ」
「ホイホ~イ」
 ユミアに連絡を入れると、すんなりOKが出た。

 年中マスコミが群れてる天空教室の入っている、超高層マンション。
ボクはタクシーを捕まえて、いつもの様に地下駐車場へと流れ込んだ。

「なんだか、メチャクチャセレブな駐車場だな。スゲー高級車が、とんでも無い数並んでやがる」
「これが普通じゃない光景だってのは解ってはいるが、毎日来てると慣れてしまってな」
「マジかよ。比較対象として、ウチのボロ貸しビルの駐車場を見せてやりたいぜ」

 友人は、高級外車やレトロなスポーツカーの鑑賞に、夢中になっている。
すると、エレベーターのドアが開き、栗色の髪の少女が降りて来た。

「先生、どうしたのよ。その頬っぺたは?」
「ユ、ユミア。まあ、色々とあってだな」
「どうせまた、エッチなハプニングにでも巻き込まれたんでしょ?」

「そ、そんなところだ」
「やっぱり、図星なんだ」
 ジト目でボクを見る、ユミア。

「と、ところで、どうしてわざわざ駐車場まで、降りて来たんだ。こんなところで、取材ってワケでもないだろうに?」

「当然でしょ。取材はステージが良いって、アイツが言ったのよ」
「アイツって……久慈樹社長だよな?」
 ユミアは答えなかったが、否定もしなかった。

「オイ、ここはカーディーラーじゃないんだ。そろそろ行くぞ」
「お、おう、悪い……って、アレ、ユミアちゃん!?」
 友人は、目の前にユミアが居るコトにやっと気付く。

「ス、スゲー、本物のユミアちゃんだ。髪の色が違うから、一瞬解らなかったよ」
「せ、先生、この人って……」
 困惑を顔に浮かべる、栗毛の少女。

「大学時代の悪友だよ。今年の夏頃までは、共に就活してた仲だ」
「小汚いラーメン屋の、ブラウン管テレビで見てたユミアちゃんが、まさかオレの目の前に居るなんて感激だぜ!」

「ブラウン管テレビで、放送が映るの?」
「地上波を強引に出力してたんだ。エコとか効率とか、気にしない大将でさ」
 お陰でボクたちは、今どき三百五十円のラーメンで飢えをしのげていた。

「そろそろステージに、案内するわ。付いて来て」
 ユミアは、今居る円柱形の超高層マンションの地下駐車場と、直線的な角ばったデザインの本社ビルの地下駐車場とを結ぶトンネルに向かって、歩き始める。

「このトンネルも、もう殆ど完成してるんだな」
「そうね。でも、アイツのビルと結ばれるだなんて、不愉快だわ」
 少女は少女らしく、生理的に嫌いだと言ってのけた。

「だけどさ、トンネルってより地下街だよな。お店とか準備してるしさ」
「アイドルのグッズを売る店とか、軽食やレストラン、甘味処も入るみたいね。そこは良いアイデアだと思うわ」

「だがな、ユミア。当然だが、一般開放されるワケだろ。キミらが、買いに来れる状況じゃ……」
「わ、解ってるわよ、そんなコト」
 急に不機嫌になる、ユミア。

「オ、なんだか軽快な音楽が、聞こえて来たぜ」
 友人が、目を輝かせながら言った。

「この先が、ステージか。どんな感じだァ!」
 幼子のように駆けて行く、見慣れた後ろ姿。

 コイツは、音楽の話をするときは、いつもそうだった。

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