キャラメルマキアート
オレンジ色の髪へと変化した双子姉妹と共に、街の中心へと向かうオールバックにグラサン姿のボク。
地下鉄に揺られていても、誰も中抜き広告で話題になっている人物だとは気付かれなかった。
「ハア、ハア……やっぱ地下鉄の階段って、キツイな」
双子姉妹の姉であるカトルが、地上へと続く階段の途中で息を切らしている。
「大丈夫か、カトル。やはり、エレベーターを使った方が良かったんじゃ……」
「え、ええ、ヤダよ。お年寄りみたいジャン。心配しなくたって、これくらいはへ、平気」
そう言いつつも、片方の肩を妹のルクスに委ねる少女。
「無理するんじゃ無いぞ。お前の心臓がどのくらい悪いのか、ボクには解らない。もし、万が一のコトがあったら……」
「お、大袈裟だな、お兄ちゃん。たかが地下鉄の階段でしょ、フウ、やっと着いた」
長い階段を登り終えたカトルは、大きく息を切らしている。
傍らには、心配そうに背中を摩る妹の姿があった。
「うわ、11時だってのに街の中心、人通りスゴ!」
「この辺もかなり、大っきなビルが建ったよね」
元気を取り戻したカトルと、ルクスは辺りを見回し驚いている。
「街最大のターミナル駅だ。周りの建物も、デパートやオフィスビルなど巨大なモノばかりだし、地下街も網の目のようになってるからな。そこで働いている人もいれば、利用する人もいる。それだけ大勢の人が、行き交うんだ」
「うわあ、それだけたくさんの場所を、見回らないと行けないってコト?」
「探す場所が、上にも下にも広がっちゃってるのも、厄介だよね」
「そうだな。カトルとルクスは喫茶店に入って、ユミアたちと情報のやり取りをしてくれないか?」
「喫茶店って、言い方古いなァ、お兄ちゃん。でも、探偵みたいなコトがしたかったのに!」
「だけどカトル、それはそれで探偵の助手みたいで面白そうじゃん」
「ウ~ン、それもそうだね。じゃ、キャラメルマキアートおごってよ、お兄ちゃん。2人分」
「い、今はなんと言うのか知らないが……まあ仕方ない、ホラ」
ボクは少し多めの金額を、2人に渡した。
「うわ、こんなに貰っちゃっていいの、ラッキー」
「お兄ちゃん、太っ腹ァ!」
「イヤ、長居をするだろうから……それじゃ、頼んだぞ」
「ウン、任せて!」
「Wi-Fi使い放題だから、動画見ながら頑張るよ」
「真面目に頑張れ!」
ボクは、緑色の看板の店の前で2人と別れ、街を歩き周る。
「すみません、この辺で、動く人形を見ませんでしたか?」
「ハア、なにを言っているんだね、キミは?」
「し、失礼しました」
「動く人形……見てないねェ」
「ハア、なに言ってんの、キモ!」
「動くお人形さん、見てな~い」
デパートや地下街など、入れる場所はできる限り入り、あらゆる年齢層の人たちに聞いて周ったが、目撃情報は無かった。
「レアラとピオラのヤツ、一体何処へ行ったんだ。こうも目撃情報が無いとなると、既にこの場所を離れてしまったのだろうか?」
汗をぬぐいながら繁華街を歩いていると、ボクのポケットがブルルと震える。
「もしもし、カトルか?」
「ルクスだよ。まあ、どうでもいいか。今、ユミアから連絡があったんだ」
「そうか、それで……」
「ウン、地下街の監視カメラに、2人の姿らしき映像が映ったんだ。10分前にね」
「地下街か。最初に行った場所じゃないか」
「お兄ちゃんと、行き違いになったんじゃない?」
「スマホでの会話なんだから、お兄ちゃん設定はもういいだろ」
「ダメだよ。こ~ゆゥのは、雰囲気が大事なんだから」
「それより2人が向かった方向は、噴水のある広場なんだ」
「そ、そうか、ルクス。今から向かうよ」
「もう、カトルだってば、お兄ちゃん。いい加減、覚えてよね!」
スマホの向こうから聞こえて来る双子姉妹の声が、無理難題を突き付ける。
「とにかく、地下の噴水広場に行けばいいんだな」
ボクは、再び地下へと続く階段を下って行った。
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