バッグの中身
曖経大名興高校の郊外にある、グランド。
バスが降りて来た土手には、色んな学校のみんなのカバンが放り出されている。
ウォーミングアップを始めようとしていたデッドエンド・ボーイズに、岡田先輩率いる曖経大名興高校サッカー部が近づいて来た。
「邪魔クセーな」
岡田先輩が、目の前にあったカバンを蹴り飛ばす。
「ああ、オレさまのカバン!?」
「ああ?」
ギロリと睨む鋭い眼光に、たじろぐ黒浪さん。
紫がかった学ランを来た集団は、そのまま挨拶もせずにボクたちの間を素通りし、自分たちの更衣室へと向かった。
「な、なんだかお前の学校、やけにヤンキー率高いよな」
「そう言えば、県内でも有数の治安の悪い学校でしたよね」
「何年か前に、殺人事件とか無かったっけ?」
黒浪さんと柴芭さんと、紅華さんが言った。
言われてみると、ウチの学校って物騒なのかな?
確かに窓に鉄格子がされてるし、机も椅子も教壇もボロボロだケド。
「一馬、今日は荷物運びね。ボールが入ったカバン、バスから降ろして来るよ」
セルディオス監督に言われて、ボクはコクリと頷いた。
やっぱ今日の試合、使って貰えないのか……残念。
そう思いながら、マイクロバスに向かって駆け出すボク。
うわあ、こっちって更衣室のある方じゃないか。
なるべく、近づかないようにしよ。
「オイ、1年。挨拶して来い」
すると更衣室の中から、岡田先輩の低いが声が聞こえて来た。
「なんだァ、不服か?」
「い、いえ。別に……」
「だったらさっさと、言って来やがれ!」
更衣室の扉が開き、誰かが勢いよく飛び出して来た。
ボクはその誰かと、鉢合わせする。
「み、御剣!?」
「あ……」
目の前に立っていたのは、クラス委員長の千葉 蹴策だった。
「ま、見ての通りだ。流石に、一筋縄で上手くは行かないな」
千葉委員長は、ボロボロにされたユニホーム姿で、顔は眼の上が赤く腫れあがっている。
口元からは、血が垂れていた。
「そ、その……ケガ!?」
「ああ、これか。岡田先輩たちに、ボコられてな。だが沙鳴のコトはちゃんと抗議したし、部の在り方を変えるべきだとも言った」
ス、スゴイな、委員長。
その代償が、体のケガなんだ。
「じゃあな。この試合、なんの気まぐれだかオレも使って貰えるんでな。お前も頑張れよ」
委員長は、ボクのチームの方へと駆けて行った。
……頑張れと言われても、ボクは試合に使って貰えないんだ。
でもやっぱ、委員長に選ばれるだけあって良い人だな。
そう思いながら、海馬コーチから受け取ったキーで、バスのドアを開ける。
「確か、紅華さんが陣取ってた一番奥の席の、前の席に置かれてたよな」
無人のバスの中では、ちゃんと話せるボク。
「あった、これだこれ……ンンッ!?」
2人がけの椅子に置いてあった黒いスポーツバッグが、なにやらモゾモゾ動いてる。
「うわぁ、なんでバッグが動いてるんだ。だ、誰かのイタズラかなあ!?」
「キャッ!」
転がって、床に落ちたバッグから女のコの悲鳴が聞こえた。
「な、なんだ。このバッグ、中身がボールじゃ無いんじゃないか!?」
ビク付きながら、バッグのジッパーを開ける。
すると中身は、ヒザを抱えて丸まった人間だった。
「に、人間が詰まってたァ。し、しかも、体形からして女のコだぞ!?」
中に詰まっていたのは、ジャージを着た人間で、腰がくびれお尻も大きいから、女のコだと解かる。
頭にはナゼか、剣道の面を被っていた。
「キ、キミ……もしかして、沙鳴ちゃん?」
流れで話しかけると、面の中の可愛い瞳がボクを睨んだ。
「そ、そうよ!」
少女はバッグから起き上がって、面を取る。
黒いツインテールが、優雅に宙を舞った。
「コッソリ抜け出して、アイツを闇討ちしてやろうかと思ったのに、どうして戻って来んのよ!」
「そ、そう言われても……」
何処となく奈央に似ているせいか、普通に喋れてしまう。
「まあいいわ。昨日は醜態を晒したわね……その……」
「ああ。漏らしちゃったコトなら、誰にも言わないから」
「堂々と、言ってんじゃないわよ!!」
顔を真っ赤にしながら怒る、沙鳴ちゃん。
「まあいいわ。作戦変更よ。これからわたし、アンタのチームのマネージャーになるから」
そう言うと少女は、剣道の面を被り直した。
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