ルーキーの激突
クラウド東京スカ―フェイスのフォームスタジアムに乗り込んだ、名古屋リヴァイアサンズ。
観客席に揺れる旗(フラッグ)の数は、圧倒的にクラウド東京のモノが多く、そこが敵地であるコトを証明している。
「いよいよ……死神と倉崎さんの、対決だ」
遠く離れた名古屋の自宅で、ボクはテレビに映る2人の雄姿を、固唾(かたず)を飲んで見ていた。
『美堂、これは意図的に倉崎に向って行ったかァ!?』
『ゴールでは無く、一直線に倉崎に向って行っているところからすると、恐らくそうでしょうね』
「美堂さんはあえて、倉崎さんとの対決を選んだんだ」
テレビの実況解説を聞きながら、勝負の行方に手に汗握る。
『美堂、直線的な力強いドリブルで、倉崎を抜きにかかるゥ!』
『倉崎も、読んでいますね。先にドリブルするコースに入って、ファウルを誘う狙いでしょうか』
美堂さんの真正面に立ち、迎え撃つ倉崎さん。
『おっとォ、美堂も加速する。ルーキーの2人が、激しく激闘したァ!?』
『倉崎が倒れましたね。美堂はビクともせず、そのままドリブルを続けようとしていますが……』
『ピーーーーーッ!!』
審判の、笛がなった。
『これは当然、ファウルでしょう。ですが、カードは出ないようです』
『見て下さい、倉崎がすでに試合を再開してます。ボールを、左サイドのロベルトに出しました』
「ナイス判断だ、倉崎さん。でも、激しい激突だったケド、大丈夫かな?」
けれどもカメラは、左サイドを駆け上がるロベルトさんを追う。
『慌てて戻る、クラウド東京の守備陣。ですが中央には、右サイドのカイザーが走り込んでいる』
『ロベルト選手の、相変わらずの優雅なクロスが上がりましたよ』
『これに合わせる、カイザー。屈強な身体が、宙を舞う……』
名古屋リヴァイアサンズの、外国人ホットラインが繋がった。
誰しもが、カイザーのゴールを予測しただろう。
「あッ!?」
ボクは、思わず大きな声を上げた。
『おおっと。ここに美堂選手が戻って、ヘディングで応戦するゥ。ゴールは、許さなーいッ!?』
『彼は、守備もこなせるんですね。決定機を、見事に阻止しましたよ』
ルーズボールが、大きく宙を舞う。
「く、倉崎さんなら……!」
ボクの予想した通り、ボールの落下地点に背番号14が走り込む。
『倉崎だ。落下して来るボールに、倉崎が合わせたァッ!!』
『こ、これは……!?』
見事なボレーシュートが、クラウド東京のゴール右隅に決まった。
観客席の一角に陣取った、名古屋のフラッグだけが大きく揺れる。
『なんと倉崎、これをダイレクトボレーで沈めるゥ!』
『倉崎のボレーの上手さは、職人技ですね。とてもルーキーとは思えませんよ』
『すでにチームの中心として、機能している倉崎。これは、エースと読んで過言では無いでしょう』
倉崎さんの今季7点目のゴールが決まり、名古屋リヴァイアサンズは敵地で2-0と、試合を優位に展開しようとしていた。
『ああっとォ。だがここで、倉崎がピッチにうずくまっている!?』
『どうしたんでしょうねェ。先ほどの、美堂との激突のときでしょうか?』
「く、倉崎さん!?」
薄型テレビに映し出される、右脚を押さえて座り込む倉崎さん。
その周りに、チームの医療スタッフが集まって来る。
『これは心配ですね、末林さん』
『美堂との接触は、カードこそ出ませんでしたが、かなり激しいコンタクトプレイでしたからね。何事も無ければ、良いのですが……』
けれども、医療スタッフが腕でバツ印を作る。
ピッチに担架が、運び込まれた。
『残念ながら倉崎、どうやらダメなようです』
『もっと彼のプレイを、見たかったんですが……大きなケガで無いのを、祈るばかりです』
担架に乗せられ、ピッチを後にする倉崎さん。
名古屋サポーターの拍手と、東京サポーターのブーイングが、背番号14を見送った。
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