勇者とは……
「ウフフ。わたくしの強さが、お解りいただけたかしら?」
魔王ガラ・ティアが、マゼンタ色の髪を跳ね上げながら言った。
「なに寝ぼけてやがる。そんなモンは強さじゃねえ。ただの暴走した力だ」
珊瑚色の槍で、全身の筋肉にダメージを負ったクーレマンスも意地で言い返す。
「アナタこそ勘違いなさっているのではなくて。力とは、筋肉などではありませんコトよ?」
「グ、グアオオオォォーーア!?」
ガラ・ティアの槍が、再び筋肉男を弾き飛ばした。
「アレ……ガラ・ティア。良い獲物見つけてる」
「ねえねえ、ボクたちにも戦わせてよォ」
すると、市場に流れ込んでいる海水の瀧から、2体の魔王が現れる。
「ま、また魔王が現れた。しかも、2体も!?」
岩陰から、舞人が叫んだ。
「オレは、ベク・ガル。テメー、オレが喰う!」
2体のうち、藍色の髪の魔王が言った。
ベクは、褐色の肌の痩せた少年といった風体で、トラの毛皮を着ている。
キザギザの歯を持ち、眼は交戦的だ。
手にした藍色の槍は、3本の鉤爪が付いている。
「イヤイヤ、ここはこのボク……スプラ・トゥリーの出番だよ」
緑色のショートヘアに、半透明の白いコートを来た少女が言った。
スプラが着ているコートは、尖ったフードに三角のヒレが付き、下部は無数の触手になっている。
コートの下には、ライム色のスカート付きワンピース水着を着ていた。
手にした緑色の槍は、先端が傘の様になっている。
「ア、アナタたちの助けなど、必要ありませんわ」
「獲物横取り……とうぜん!」
「ま、早いモノ勝ちってねー」
2体の魔王が、ガラ・ティアの横をすり抜け、クーレマンスに襲い掛かった。
「リーセシル、リーフレア。ここはオレさまに任せて、王子の元に行ってやれ!」
筋肉の鎧を纏った巨漢が、双子司祭に向かって怒鳴った。
「ハア。この状況で、なに言ってるの。バカなの!?」
「わたし達がいければ、回復(ヒーリング)も出来ないんですよ!」
「ンなことァ解ってる。だが、王子のコトを考えろ。アイツは、なんの武器も持たねェで、魔王と対峙してるんだぞ」
「それは……そうだケド」
「でも、1人で3体の魔王を相手にするだなんて無茶です!」
その間にもクーレマンスは、魔王たちの繰り出す槍を受ける。
「オレの槍……『クリ・シュナ』を喰らえ!」
ベク・ガルの槍は無数のサメの顎を呼び寄せ、鋭い牙が何重にも生えた顎は筋肉を裂きえぐり取った。
「ガハアア!」
ヒザを付き、崩れる巨漢。
「クーレマンス!?」
「今、回復を!」
「い、いいから行け。女王を倒されたら、この街はお終いなんだろ!」
「今度は、ボクの番かなぁ。ボクの槍『アス・ワン』で、ゆっくり絞め殺してあげるよ」
スプラの放った緑色の槍は、傘の様な先端が大きく展開して、無数の触手となって大男を締め上げる。
「グオォハアッ!?」
屈強な筋肉でも振り解けない触手が、内臓をも圧迫して血を吐くクーレマンス。
「そ、それにオレは、1人じゃねェぜ。そこの岩陰に、蒼き髪の勇者さまも居るだろうがよ」
「え……!?」
武器を無力化されている舞人は、焦った。
「でも、今の舞人くんは、剣を使えないんだよ!」
「そうです。今の舞人さんでは、戦力には……」
「いいから行け。こっちは大丈夫っつってんだろうが!!」
クーレマンスは、大喰剣ヴォルガ・ネルガを振るって、何とかスプラの触手を振り解いた。
「ボクの触手を、振り解いただってェ!?」
「オレの攻撃で、倒れないのもオカシイ」
力任せの脳筋技に、唖然とする2体の魔王。
「舞人よ。そんなトコに隠れてねェで、出て来て戦えよ」
背中を向けたまま、後ろの少年に語りかける大男。
「で、でもボクは、ジェネティキャリパーを無効化されちゃって、戦う力は……」
「なあ、舞人。お前は、『勇者』だろ?」
「い、今のボクは、勇者なんかじゃ……」
思わず顔を背ける、蒼い髪の少年。
「勇者ってのはよォ。強い剣を持ってるから、勇者なのか。違うだろ?」
「あ……」
少年の心に、憧れていた赤い髪の英雄の姿が浮かぶ。
「勇者ってのはな。誰にも負けない勇気を持ってるから、勇者なんだろ!」
巨漢の言葉が、少年の心を大きく揺さぶった。
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