ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第05章・第39話

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邪馬台国とマイナス90度

「思ったよりか、妨害も少な無くてよかった良かったな」
 枝形先生が、助手席で荷物のように丸まっているボクに言った。

「ええ、そうですね。どうやらマスコミも、ここまでは来てないみたいですし」
 身体を伸ばして車を降りると、枝形先生に付いて酒屋の暖簾をくぐる。

「悪いんだケド、向かいの駐車場の車、明日まで置かせてくんない?」
「ああ、またかい。いい加減、車で来るの止めてくれないかねえ」
「そう言うなって。今日は、新しいお客連れて来たんだ」

「アラ、随分と若い男じゃないか。アンタも、先生なのかい?」
「はい。ど、どうも」
 ボクは、軽く頭を下げる。

「お、アイツらも来てやがんな」
 店の奥を見ると、座敷席のテーブルを囲んだ何人かが、手を挙げていた。

「えっと、今日は飲み仲間と一緒なんですね」
「悪かったな。先ィ、言っとくべきだったわ。ま、悪いヤツらじゃねェんで、気楽に居てくれや」
 ボクたちは、お猪口を傾けるオジサンや、刺身を頬張る若い女性たちの間を抜け、席に座る。

「ガタさん、久しぶりやのォ。もう、何年も合っとらん気ィするわ」
「スマンな。本の完成を急いどったからや」
「枝形先生、本を出されるんですか?」

「まあ、電子書籍なんだがな」
「どんな本なんですか?」
「ああ、『邪馬台国の謎、遂に完全解明・ヒントは、マイナス90度』ってタイトルや」

「ガタさん、まだ邪馬台国が、近畿にある思ってるんスか。北九州に決まってますって」
 向かいの席の若いお兄さんが、ネギまを食べながら言った。

「何言うとるんや、邪馬台国は四国。日本は四国が真っ先に、生まれたんや」
 その隣の真っ赤な鼻のおっちゃんが、トマトスライスを食べながら反論する。

「確か、国生みの神話のお話ですよね。淡路島の後、四国を産んだとか」
「そうや、流石はガタさんのお連れさんや」
「アンタはどこだと、思う派だ?」

「へ、どこ……とは?」
「決まってるやん。邪馬台国の場所だよ」
 どうやら席に座っているのは、邪馬台国の謎・愛好家の人たちらしい。

「え、えっと、近畿……かなと」
「なんや、近畿説か。ガタさんとおんなじやないかい」
 別に根拠も無かったが、今はそれが定説な気がする。

「近畿説なんて、お偉い学者さんが言ってるだけや無いっスか」
「そうそう、何のロマンのあらへんわ」
 テーブルに、もつ鍋が運ばれて来た。

「お前ら、考察が足りんのォ。邪馬台国は、ヤマト朝廷で決まりや」
「漢字が違う……って、元々当て字だからまあ、そこは良いとして」
 確かに当時の日本に、文字はほぼ存在していない。

「関西説の最大の謎は、南を西にしてまうトコや」
「いくら古代の人だからって、西を南とォ間違わんっしょ」

「魏志倭人伝だと、九州にある不弥国から、南の投馬国に水行20日。さらに南に水行10日・陸行1月を進むと、邪馬台国とあるでな」
「不弥国が九州のどこにあっても、そんなに南に行ったら海の上でしょ」

「それが、南じゃなく西の間違えだったんだよ」
 枝形先生は、徳利を揺ら揺らと振った。

「だから、そこだけ間違えるって、都合良過ぎでしょ」
「だぁから、そこだけじゃねえ。全部、間違えてやがったんだ」

「ぜ、全部って、ガタさん何言っとるんや?」
「もう、酔っぱらったのか?」

「酔ってなんかねえ。つまり、魏からの使節団は日本に上陸してからずっと、方位をマイナス90度、間違ってやがったのよ!」
 枝形先生は、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

「ガタさん、それってどう言う……」
「いいか、よく聞け」
 枝形先生は、カバンからタブレットを取り出し、九州の地図を表示した。

「まず使節団は、九州の末廬国。今の松浦半島付近に、上陸したと思われる」
「ま、まあそこは、見解が一致しとるね」

「倭人伝では、そこから東南に陸行500里で伊都国とある。だが、伊都国とされる糸島市は東南じゃなく北東だ」
「方角のずれってヤツですよね。昔の話だし」

「アッ!」
 ボクは、思わず叫んでいた。
「方角がマイナス90度、ズレてる」

「え……ああ!?」
 ボクの言葉を理解したのか、若いお兄さんがタブレットを覗き込む。
「ホ、ホントだ。確かに反時計回りに90度、ズレてる」

「面白ェのは、こっからよ。倭人伝では、東南の奴国まで100里とある。だが、実際には北東の福岡辺りが奴国なのは間違いねえ」
「ウウム、確かに金印も出とるしの」

「金印って?」
「『漢の倭の奴の国の王』ってヤツよ。実際には、倭じゃなく委だがな」
「あの有名な金印が、福岡で発見されたんですか?」

「志賀島って島だがな。福岡県の北に浮かんでるよ。他にも奴国は、2万戸とある。これだけの人口を抱えられるのは、筑柴平野か福岡平野くらいだ」

「そっから東に100理で、不弥国だから……マイナス九十度ズラすと?」
「北、今の福津市辺りか。勝浦古墳群もあるし、宗像の沖ノ島も近い」

「不弥国から投馬国まで水行20日で、南だからえっとなんだぁ?」
「そこは近畿説の基本だろ。東になるんだよ」
「徳島か淡路島辺りか。それで南……つまり東に水行十日、陸行一月で遂に」

「邪馬台国なんですね!?」
 ボクもいつの間にか、古代のロマンに引き込まれていた。

「だけど、邪馬台国が近畿のヤマト朝廷だったとして、周辺国との地理がおかしくなるんじゃ?」
「たぶんそこも、マイナス90度ズラして考えるんですよね?」
 熱くなったボクは、若いお兄さんに意見した。

「ご名答だ。女王国の北にあるとされる国々は、全て西。つまり西国の国々だ。で、九州の伊都国に代理の王を立てて、西日本に睨みを利かせてる」
「後の太宰府みたいにですか……ってか、もしかして大宰府が既にあったんじゃ?」

「どうやらな。あと、南の狗奴国が邪馬台国、つまりヤマト朝廷に逆らってるってのは」
「東の勢力ってコトですね」

「恐らく諏訪のミシャグジ神とか、もしくは富士かその辺りの勢力だろう。諏訪は、古事記なんかの神話にもなってやがるしな」

「つまり魏志倭人伝は、日本での全ての方角がマイナス90度ズレて記載されていたんですか」
 ボクは改めて、歴史のロマンを感じる。

「アンタら、なにやってんだい。モツ鍋が、溢れちまってるじゃないか」
「あ……」

 目の前の鍋が、火山の様に噴火していた。

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