ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・13話

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サンムラマート

『着替えはこちらで用意しておりますが、更衣室は男女別となっております』
『お手数ですが、二手に分かれて着替えをお願いいたします』
 銃で武装された見た目とは真逆の、丁寧な対応のアーキテクターたち。

「それじゃあクーリア、また後で」
「ええ、宇宙斗艦長」
 素っ気ない会話の後、クーリアたちと別れたボクは、プリズナーと男性用更衣室へと入った。

 部屋はとても細長く、白を基調とする洗練されたデザインのロッカーが、遥か先まで並んでいる。

「普段ならここも、一般の客でごった返しているんだろうな。こんな巨大豪華客船を、交渉場所に使う必要なんてあるのか疑問ではあるが……ん?」

「まったくだぜ。カルデシア財団の奴ら、何を考えてやがる……あ?」
 ボクたちは、アーキテクターに指示されたロッカーを開ける。
けれどもそこには、小さな布切れが1枚置いてあるだけだった。

「オイ。何の冗談だ、こりゃあよ」
「制服とか礼服なんて、どこにも入ってないじゃないか?」
 そう言いつつ、ロッカーにあった布切れを広げてみる。

「これって……海パン!?」
 それは紛れも無く、ズボン状の大きな海パンだった。

「オレのはもっと、面積が小さいぜ」
 プリズナーが手にしているのは、いわゆるブーメラン水着であろう。

『当艦、セミラミスは、ご存じの通り巨大宇宙豪華客船でございます』
『当艦の主により、正装は水着と取り決まっているのです』
『内部はリゾート街となっており、水に濡れる場所も多数存在しますので』

 拠点制圧用の銃を腕に抱えながら、3体並んだアーキテクターは言った。

「どうやら他に、選択肢は無ェみてーだな」
「仕方ない。確かに水着じゃ、大した武器も隠し持てないしね」
 ボクたちは宇宙服を脱ぎ捨て、ロッカーに放り込んだ。

『この先が、除菌ルーム。更に先が、リゾート街サンムラマートでございます』
 ロッカールームの所々には、外部に続くドアがあり、そのウチの一つを抜けると小さな小部屋に出る。

「うわ、なんだ!?」
 急に天井から、液体が降り注いだ。

「慌てんな、除菌用のシャワーだ。オラ、行くぞ」
 プリズナーは平然としたまま、除菌質を抜け街へと入って行く。

「ま、待ってくれよ」
 ボクも慌てて、後を追った。

「うお、これは……」
 肌に、蒸し暑い空気が纏わり着く。
周囲には、巨大な葉っぱを垂らした木々が 立ち並び、地面は背の高い草花で覆われていた。

「リゾートって言うより、まるでジャングルじゃないか。視界が殆ど、遮られてる」
 ボクが想像していたのとは、まるで違った光景が目の前に広がっている。
脚を踏み出すと、そこかしこから色々な鳥の鳴き声が聞え、草花には蝶や甲虫が留まっていた。

「マズい、プリズナーを見失ってしまった。こんなんじゃ、交渉場所がどこかも解らないよ」
 とりあえず、草木の間に僅かに空いた道無き道を進んでみる。
倒木のアーチをくぐり、洞窟の入り口を横目にかなりの距離を歩いた。

「ウソだろ、オイ。まさか艦の中で、遭難なんてコトにはならないよなあ。大事な交渉の前だって言うのに、洒落にならないぞ」

 焦っていたのか、少し速足になって歩く。
けれども辺りの景色は、更に鬱蒼としたジャングルへと変わって行った。

「ン……何か、聞えるぞ。水の音?」
 遠くの方から、『ゴー』っと言う音が微かに聞こえて来る。
音が大きくなるにつれ、辺りにみずみずしい空気が流れ、急に目の前が開けた。

「た、瀧だ!?」
 目の前に現れたのは、落差数十メートルはあろうかと言う、巨大な瀧だった。
とてつもない水量が上空から降り注ぎ、巨大な瀧ツボを形成している。

「確かに宇宙から見たとき、瀧はあったよな。でも間近で見ると、圧倒的な迫力だ」
 ゼーレシオンでセミラミスに向かっていた時、内部に瀧の存在を確認してはいた。

「ようやく、お越し下さいましたわね。群雲 宇宙斗艦長さま」
 いきなり、女性の声が耳に届く。

「え!?」
 辺りを確認すると、瀧ツボの畔に白いパラソルがあって、その下にデッキチェアが置いてあった。

「あ、貴女は……?」
 デッキチェアから、真っ白なビキニを着た一人の女性が立ち上がる。
クルクルと巻いた、紫色の長い髪を跳ね上げ、ボクに向かって近づいて来た。

「わたくしは、セミラミス・カルデシア・アタルタギス。ようこそ、おいで下さいました」
 真っ白な肌に、たわわに実った胸の女性は、妖艶なヒスイ色の瞳にボクを映した。

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