オアシスの激戦~1
「結局、情報らしい情報って言えば、オアシスのトカゲ女の話だけだったわね」
砂漠棲の馬に乗ったカーデリアが、砂漠用のフード付きマントで汗を拭う。
「わたしが来たコトで、返って警戒されてしまったのでしょうか?」
3人のオオカミ娘を乗せた、イヴァン騎士団長が後ろを振り返った。
「ま、可能性はあるわな。都会の街と違って、田舎は住民が結束して秘密を隠したりするからな」
「ちょっと、シャロ。それって、田舎に対する偏見じゃない?」
「現実を観ろよ。都会じゃ結束して情報を隠ぺいするなんて、不可能だろ」
「良くも悪くもと、言ったところじゃな」
大人の意見を言う、小さな馬を駆る赤毛の少女と、その後ろに乗った漆黒の髪の少女。
「まあ、そうかもだけど」
「それよりカーデリア。アレが例の、礫の砂漠らしいぜ」
砂漠を行く一団の前に、小さな石ころが無数に散らばる固い大地が広がっていた。
「情報によれば、この向こうがオアシスらしいのじゃ」
「礫の砂漠なんかに、用は無え。一気に突っ切るぜ」
シャロリュークの掛け声と共に、3頭の馬が礫の砂漠を駆け抜ける。
そこはかつて、サタナトスやアズリーサを始めとした孤児たちがビバークした場所であるが、彼らにはそれを知る由も無かった。
「クンクン……」「ねえ、父上」「なにか、居るよ」
オアシスが見えると同時に、イヴァンの前に跨ったオオカミ娘たちが騒ぎ始める。
「件(くだん)の、トカゲ女でしょうか?」
「かもな。冒険者のおっちゃんの話じゃ、1匹じゃなく集団みて~だから油断すんなよ」
「一端馬を降りて、近づいた方が良いかも知れぬのじゃ」
「もうバレてるかも、知れねえケドな。カーデリア……」
「解かってるわよ。シャロ」
赤毛の少女が振り返ると、幼馴染みが4本の弦を持つ弓を構えていた。
「カーリー、上じゃ!!」
ルーシェリアが、いきなり大声で叫ぶ。
「え!?」
愛称を呼ばれたカーデリアが上を見上げると、そこには1人の男が宙に浮かんでいた。
「みんな、避けろ!?」
赤毛の少女の指示よりも早く、男の剣が振り降ろされる。
「刻影剣・バクウ・プラナティス!!!」
砂漠の蒼い空に、突如として黒く大きな球体が出現し、それが一行の上へと堕とされた。
「きゃああ!?」
「マ、マズいのじゃ。空間が、消し飛ばされておる!」
「さ、避けきれない。パトラ、パニラ、パメラ!」
「しゃ~ねェ、『エクスマ・ベルゼ』!!!」
赤毛の少女の瞳が輝き、身体が紅蓮の炎に包まれる。
「うおおおおぉぉおーーーーーーりゃ!!」
黒い球体が中央から、吹き上がった炎に両断された。
「炎の斬撃だと……赤毛の英雄か?」
宙に浮かんだ男は、眉一つ動かさずに呟く。
長い黒髪は爆風で舞い乱れ、その背中には6枚の翼があった。
「どうやら、魔族の様じゃな。しかも、魔王クラスじゃ!」
男から溢れ出るとてつも無い魔力を、ひしひしと感じるルーシェリア。
「フッ、その通り。オレは、魔王『ケイオス・ブラッド』だ」
男は、一行の前の砂丘に降り立つ。
2つに割れた黒い球体は砂漠の地面に落ち、2つの巨大な穴を穿っていた。
「こ、これは……穴に砂が吸い込まれて、アリ地獄の用になっておりますぞ!?」
3人の娘を抱えたイヴァンが、穴から遠ざかりながら言った。
「どうやら、空間を削り取っているみたいね。とんでも無い能力の、魔王だわ」
カーデリアは最大限の警戒を払いながら、4弦の弓を構える。
「違うぜ、カーデリア……」
炎を身に纏った、赤毛の英雄が言った。
その身体は既に少女のモノでは無く、本来の英雄の姿に戻っている。
「な、なにが違うのよ、シャロ!?」
「コイツは、魔王なんかじゃねえ」
「え、どう見たって魔王だし、自分で名乗ってるじゃない」
「ふむ、ケイオス・ブラッドかえ。確かに、聞かぬ名じゃ」
「で、でも……」
「それに、ヤツの剣を見ろよ。アレは、バクウ・プラナティスだ」
「バクウ・プラナティスって、蜃気楼の剣じゃない!?」
「蜃気楼の剣は現在、サタナトスの手に墜ちているのでは?」
「ああ、そう言うこった」
赤毛の英雄シャロリューク・シュタインベルグは、エクスマ・ベルゼを白く輝かせた。
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