ユークリッターの正体
今や、日本有数の巨大企業にまで成長を遂げたユークリッドが、社運をかけて開発したアプリ、『ユークリッター』。
「この惑星とか恒星を中心にしたワードの配列って、マインドマップに似てますね」
久慈樹社長に向かって、何となく思ったコトを言った。
「イヤイヤ、その通りだよ。中々に鋭いじゃないか」
少し驚いた表情を見せる、ユークリッドの若き経営者。
「惑星やら宇宙関連のビジュアルにしてるが、基本的なプログラム構成はマインドマップそのものだよ」
マホガニーの豪奢な机に肘をつき、野心的な目付きでボクを見る。
「成る程。ユーザーが上げたワードの情報を、AIがマインドマップとして組み直しているのね」
数学の教師らしい論理的な思考で、解を導くユミア。
「マインドマップは、当然ながら関係性の高いワードを周囲に示す。ユーザーはそれを辿って自分の興味のあるワードの動画や情報、商品に辿り着けると言うワケさ」
ユークリッターと銘打ったアプリは、動画・SNS・ネット通販を1つに統合したアプリだ。
久慈樹社長自らが発案し、推し進めたプロジェクトであり、それだけに社長自身も真剣なのだろう。
「こう言うのは余り聞きたくは無いんだが、このアプリの問題点とか、気付いた点はあるかい?」
自信の無いテスト結果でも見るような表情で、ユミアに問いかける久慈樹 瑞葉。
確かに開発側としては、聞きたくは無いのだろう。
「そうね。まずはビジュアルとして惑星を使ったコト。男性受けはしそうだケド、女性受けは正直、厳しい気もするわ」
「確かに開発段階でも、上がって来ていた課題だよ」
「貴方のコトだから、既に対応済みなのでしょうね」
「な、なんで解るんだ、ユミア?」
「まあ付き合い古いし、コイツ、ソフト開発の指揮者としては天才なのよ」
「お褒めに預かり、光栄だね」
久慈樹 瑞葉は、ユミアの兄である倉崎 世叛と共に、ユークリッドを立ち上げた創業者といって過言では無い。
「でも、一体どんな方法があるんだ?」
マスコミなどの情報では、天才と呼ばれたプログラマーは倉崎 世叛の方であった。
だが動画サイトの方向性を決め、商品として世に出せる品質を保ったのは、久慈樹 瑞葉の功績らしい。
「単純なところでは、『ビジュアルを変更できる』ってところね。惑星という円の中にワードを入れる感じだから、円は維持しないと行けない。花とかタマゴ辺りが無難なところだわ」
「ご名答だよ。ついでに言って置くと、『変更できるビジュアル』自体も、基本の3パターン以外は商品として販売するつもりでいる」
「先に言われちゃ、敵わないってトコかしら?」
「ヤレヤレ。その通りだよ、まったく」
後に判明するが、残りの2パターンは、女性向けの花のビジュアルと、子供向けのタマゴモチーフだったらしく、ユミアの予想と完全に一致した。
「まだ、問題点はあるかい?」
「このアプリの場合、SNSの基本アプリにしてはかなりグラフィカルなワケだケド、ここまでする必要は無い……もっとシンプルでもいい気がするわ」
「最近は、スマホも高性能化が進んでいる。そもそも、このUIを表示できないスペックのスマホじゃ、動画の閲覧すら厳しい……と言うのは、建前でね」
「また何か、あるのかしら?」
「実は、ゲーム会社とタイアップしたんだよ」
「え……このアプリって、ゲーム会社が開発に関わってるの!?」
「いや、ほぼゲーム会社の開発だよ」
「な、なんですって!?」
「そ、それっておかしいコトなのか、ユミア?」
「そりゃおかしいわよ。今まで、聞いたコトないわ」
「確かに前例は皆無かもね。でも、考えてもみたまえよ」
久慈樹社長は立ち上がり、大袈裟なジェスチャーを交えて演説を始める。
「日本は、世界屈指のゲーム大国だ。自国のハードが世界のシェアを握り、長年に渡ってゲーム業界をリードして来た。この技術を、使わない手はないだろう?」
「要するに……どう言うコトだ??」
ボクは、隣の少女をチラ見する。
「よ~するにユークリッターは、ゲーム会社のノウハウを使ったSNSアプリってコトよ!」
ユミアの言った通り久慈樹 瑞葉は、ソフト開発の指揮に関しては天才だった。
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