女王との商談
湖畔の武器屋の近くで休息を取る、女王レーマリアと彼女を護衛するザバジオス騎士団。
「そこのカッコイイお兄さんに、ピッタリの剣があるモ~ン」
「このナイフなんか、サブウェポンとしてゆーしゅーモン」
兜を脱ぎくつろぐ若き騎士たちに、アコギな声で誘いをかける8人姉妹。
「オイ、お前たち。なにやってんだよ?」
武器屋のカウンターから、八っ子に小声で話しかける舞人。
彼女たちはかつて、富の魔王・『マモン・アマイモン・マンモーン』と呼ばれていた。
「見ての通り商売モン」
「アイツら、ご主人サマのご主人さまが連れて来たモン?」
「違うよ、アイーナ、アキーナ」
「まあ、結果オーライだモン」
「今んとこお客が殆ど来てなかったから、アイツらカモモン」
「カモ言うな、アミーナ、アリーナ」
レモン色のお洒落なショートヘアに、パッションピンクの瞳をした4人の少女。
彼女たちの髪は、舞人がカットしたモノだった。
「少し原価割れになっちゃうケド、アイツらに武器を売るモン」
「サービス、サービスだモン」
「原価割れって……大丈夫なのか、マイーナ、マキーナ?」
「先行とーしモン」
「アイツらに、宣伝してもらうモン」
「ホントか、マミーナ、マリーナ。心配だなあ」
サーモンピンク色のミディアムヘアに、ライトパープルの瞳の4人の少女。
彼女たちは舞人への返事もそこそこに、武器の販売を続けていた。
「随分と可愛らしい、店員さんですね。勇者様」
レーマリアが、配下の9人の親衛隊を引き連れ、こじんまりとした武器屋に入って来る。
「ゆ、勇者って呼ばれ方、なんかまだしっくり来ないです」
「この子たちも元は、魔王だったのでしょう。魔王を無力化したばかりか従えるなど、勇者にしか出来ない所業ですよ」
「コイツらは、人間界の富に興味があっただけで、ボクに従ってるワケじゃないんです」
「そうなんですか?」
「ルーさまになら従うモン」
「ただの人間に従う義理は無いモン」
8人の少女たちは、せっせと商売をしながら答えた。
「そこの3人の侍の娘さんたち、良い刀があるモン」
「少し呪われてるケド、タブン問題無いと思うモン」
「イヤイヤ、あるだろ。呪われた武器を、売ろうとしてるんじゃない」
「もしかして、妖刀の類でしょうか?」
「そうモン。お前たちなら、扱えそうモン」
「一度、見せてはいただけませんか?」
ナターリア、オベーリア、ダフォーリアの3人は、3本の刀を受け取って念入りにチェックする。
「それぞれの刀身に、雪の文様、月の文様、花の文様が刻まれてますね」
「確かに、多少の妖力は感じますが」
「扱えないレベルでは、無いと思います」
「フッ、その刀は、名だたる名工が打ったモノだ」
武器屋の入り口から入って来た、白紫色の長髪の男が言った。
「貴方は……天酒童 雪影さま!?」
「久しいな、レーマリア……いや、今はレーマリア女王陛下であったな」
「ゆ、雪影さん。どうしてここに!?」
「わたくしも、お探ししておりました。王都ヤホーネスを救っていただき、心より感謝致します」
「残念ながら、王をお救いする事は叶わなかった。多くの民も死んだ」
「ですが雪影様がおいで下さらなければ、王都は壊滅していたでしょう。どうかわたくし達と共に王都に赴いて、生き残った民に勇気を……」
「済まないが、勇者などと言う柄では無いのでな。それは、因幡 舞人に任せよう」
「そ、そんな。だって王都を救ったのは、雪影さんたちで……」
「わたしは、そう言う類は苦手でな。それより、お前たちが手にする3振りは銘を、雪薙、月薙、花薙と言って妖刀に属するが、紛れも無い名刀だ」
「そうでしたか、名立たる名刀」
「……と同時に、やはり妖刀でもあると」
「わたし達には、まだ扱えぬ代物でしょうか?」
「イヤ、今のお前たちであれば、問題無く使いこなせよう」
「あ、有難うございます、雪影さま」
3人の侍娘は、声を揃えて頭を下げた。
「ちゃんと、お代はいただくモ~ン」
「けっこ~お高いモン」
「こ、こら、お前たち!」
「た、確かにこの金額では……」
「とてもじゃ無いですが、手が出ません」
「仕方ありません。今回は諦めます」
「そうですね、では妹たちの武器は、わたくしが購入致しましょう」
「じょ、女王陛下!?」
「わたくしの護衛に使う剣です。問題は無いでしょう?」
「毎度アリ~モン」
商談は、あっさり成立した。
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