サーフィス・サーフィンズ
ボクたちは河べりの練習場から、待ち合わせ場所のファミレスに向かって歩いていた。
「なあなあ。どんなチーム名なんだ、キャプテン?」
今から会うチームの名前を、一刻も早く知りたがる黒浪さん。
「『サーフィス・サーフィンズ』と言う名だ」
雪峰さんが言ったチーム名は、トーナメント表に書いてあった記憶がある。
「オイオイ、そのチームって確か?」
「ああ、一回戦でチェルノ・ボグスに、30点も取られたチームじゃねえかよ」
「30点も取られるキーパーって、一馬のがマシなんじゃね?」
ヒ、酷いよ、黒浪さん!
「もう少し強いチームと、コンタクトは取れなかったのかよ、雪峰」
「ウチだって決勝で、12点も取られている。人のコトは言えんだろう」
「ウチは死神一人に、してやられたんじゃねえか」
「例えヤツが出なくとも、総合力で負けていた。現に前半の時点で、リードを許している」
「そうかも知れんが、負けたウチの底上げに30点も取られたチームってどうなんだ?」
「でも、紅華。彼らのスコア、30-1ね」
「つまりチェルノ・ボグスから、1点挙げてるってコトかよ」
「まあ何にしても、サッカーチームなら11人は必要なんだ。頭数さえ揃えちまえば、後はオレさまの高速ドリブルで何とかしてやるぜ」
「仕方ねえ。どんな奴らだったかも覚えてねぇが、会うだけ会ってやるか」
「お前ら……頼むから失礼の無いようにな」
雪峰さんは、自由過ぎる2人のドリブラーに硬く念を押してから、ファミレスのドアを開ける。
「お客様、何名さまでいらっしゃいますか?」
「今は7名ですが、後から10名程合流する予定です」
流石は雪峰さん、ボクもあんな風にちゃんと喋れたらなァ。
「少々お待ち下さい。今、席にご案内いたしますね」
女の店員さんは窓際の、向かい合った広めのテーブル席に案内してくれた。
「ところでキャプテン。ここの会計はどうなるんだ?」
「みんなには倉崎さんから、給料が支払われている。そこから引き落として置く」
「なんだよ、オゴリじゃねえのかよ」
「オレさま、目玉焼きハンバーグとドリンクバー」
「ま、オレも同じでいいいや」
「自分も、それで構わない」
「一馬、お前もそれでいいか?」
黒浪さんの助け船に、必死に顔を縦に揺らした。
「ボクは、コーヒーだけで構わない」
「なんだよ、柴芭。せっかくだから、同じの喰えよ」
「男が揃いも揃って、同じメニューはおかしいだろう?」
「済みませーん、目玉焼きハンバーグと、ドリンクバー6つ」
「強引だね、キミは」
呼ばれた店員さんが、注文を端末に入力する。
「セルディオスさんも、同じでいいっスか?」
「そうね、紅華。シュラスコかフェジョアーダがイイね」
「ね~よ、ンなモン」
「仕方ないね。ビールと山盛りポテトフライ、あと唐揚げとハイボールね」
「このメタボ親父、昼間から酒浴びる気かよ!」
「しっかりメニュー、インプットされてんじゃん」
「畏まりました。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「以上でいいよ」
黒浪さんの返事を聞いた店員さんは、レジの方へと消えて行った。
マニュアル通りに、あんなにスラスラ喋れるなんてスゴイよな。
流石は、プロフェッショナル。
「どうやら来たみたいだな」
ボクが店員さんの仕事に感心していると、レジの方で来客を知らせる入店音が鳴る。
「サーフィンズってんだから、みんなサーファーなのかな?」
「どうだかな。サーフィスには、上っ面って意味もあるぜ」
会う直前になって、予想を始める黒浪さんと紅華さん。
するとレジの方から、10人くらいの男の人たちが歩いて来た。
みんな、アニメやゲームのキャラがプリントされたTシャツに、大きなリュックサックを背負っている。
「どうやら、オレの予想が当たったみてーだな」
「な、なんでェ。ぜんぜんサッカーもフットサルも、上手く無さそうだぞ?」
「大方、現実のサーフィンじゃなく、ネットサーフィンの同好会ってところだろ」
「でもよ。1人だけサーファーっぽいのが、混じってるぜ」
黒浪さんが、列の最後尾を指さす。
最後に現れた人は、金髪のドレッドヘアにブカブカの短パン、大きなサイズのTシャツを着ていた。
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