潜在能力(ポテンシャル)
体育館の外では、相変わらず雨が降り続けていた。
倉崎さんに、そんな想いがあったなんて……。
「オレたちが、倉崎さんの理想のチームの一員だと言うのなら、光栄ですが……」
「ン、どうした、雪峰?」
「オレたちの実力は、そこまでのモノでしょうか。少なくとも……」
仁王立ちの男の方を見る、デッドエンド・ボーイズのキャプテン。
「フン……お前たちが、この三木一葬より実力があるとは思えんが?」
悪鬼でも睨みつけるように、倉崎さんを睨みつける葛埜季さん。
「オレの弟のやっていたゲームは、妙にリアルでな。優秀な選手は契約金が高く、立ち上げたばかりのチームでは見向きもされないだろう……と言っていた」
「それ、ゲームがリアルと言うより……」
「倉崎さんの弟さんが、現実主義者(リアリスト)なのだろうな」
「ま、そりゃそうだわな。お前がチームを立ち上げるっつったところで、本気でお前のチームに加わろうとは思わねえしよ」
ヤンキー座りの男が言った。
「プロから誘いを受けているオレたちが、それを蹴ってお前のチームに加わる可能性は無いな」
「はっきり言ってくれるな、宝木。だが現実問題として、それは事実だった」
「高校3年のオレたちは言うに及ばず、1年や2年であっても、有力選手との契約は厳しいだろうね」
「それで集められたのが、オレたちですか……」
雪峰さんの表情が曇る。
「陸上界じゃ名の知れたオレさまも、サッカー界隈じゃまだまだ無名だかんな」
「士官学校(防衛高校)志望だった自分などは、完全に無名であります!」
「オレも勉学に専念しようと、サッカーは辞めようと考えていた……」
「ケッ、何かと思えば、ただのガラクタの寄せ集めじゃねえかよ」
言われてみれば、勇樹さんの言う通りだ。
自分の高校のサッカー部にすら入れなかったボクなんか、究極のガラクタだよね。
「フッ、オレの弟のスカウト眼を舐めるなよ、勇樹」
「アン、なに言って……」
「確かに現時点で、コイツらの実力はお前たちより劣っているだろう」
「解かってんじゃねえか」
「だが数年後には、お前たちの実力を超えていると、オレは考えている」
「ハア、寝ぼけてんのか、お前は!?」
「……なッ、く、倉崎さん!?」
「それはちょっと、言い過ぎなんじゃねえかな?」
「じ、自分に、そこまでの力は……」
フィールドプレイヤーなのにゴールキーパーやってるボクなんか、どうなるんだァ。
「オレはそうは思わんぞ」
「コイツら自身が、そう言ってるのにか?」
「ヤコブは、彼らの内に潜むポテンシャルの高さを見抜いていた」
ボクたちの……潜在能力(ポテンシャル)の高さ?
「実際にあってみて確信したよ、勇樹」
再びサングラスをかけ、余裕の表情を浮かべる倉崎さん。
「ずいぶんな自信じゃねえか、倉崎」
「ならば彼らの実力、次の試合で試してみるとしましょう」
「手加減など一切せず、完全なる実力を持って粉砕してくれるわ」
「ああ……頼むわ、葛埜季」
「フン……」
巨漢の仁王さまに率いられ、三木一葬の3人は去って行った。
「……よう、なんかあったのか?」
「お前、今までどこ行ってたんだ、ピンク頭」
「柴芭のヤロウをからかいにな。で、今の三木一葬のヤツらだったよな?」
「そろそろ試合だぞ、紅華。準備しろ」
「へ~い」
それからボクたちは、準備を終えピッチに脚を踏み入れる。
対戦相手は、本気モードの三木一葬が率いる、チェルノ・ボグスだった。
「アイツら、やたらと気合入ってんじゃねえか?」
「まあ、色々あったんだよ。ピンク頭」
「だが、ウチも杜都が出られる。万全の体制で臨めるんだ」
「自分は部隊に迷惑をかけてしまった。汚名返上の為にも、全力を尽くす」
「な、なんかお前らまで、気合入ってないか?」
「お前も気合入れろ、ピンク頭!」
ボクも、気合入れなきゃ。
慣れないキーパーだけど、何としてもゴールを死守する!
けれども試合は、一方的な展開となる。
ボクのキーパーグローブの先を、何度もボールが通り抜け、スコアボードの片側の数字だけが、何度も加算された。
終わってみれば、12-0の不甲斐ない数字で、デッドエンド・ボーイズは敗北した。
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