ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第18話

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プニプニ不動産

「悪かったな、テミル。周囲を確認せず、飛び出してしまって……」
 ボクは、ぶつかって転ばせてしまった生徒に、手を差し伸べる。

 アパートの玄関先のコンクリートに、体育座りの格好をした少女は、ベージュ色のパーカーに白いミニスカート姿だった。

「あ……」
 咄嗟に、スカートと健康的な二つの太ももの隙間から、目を逸らす。

「うわあッ。先生、ど、どこ見てるんですか!」
 テミルは慌てて、開いた脚を閉じスカートを必死に押さえた。

「み、見てない、ボクは何も見てないぞ」
「じゃあ、何色のどんな柄だったっスか?」

「レモン色に白ドットの……アレ?」
「ホラァ、やっぱ見てるゥ。信じられないっスッ!」

 しまった。
前にも、同じようなコトがあったような。

「と、ところでテミルは、なんでウチのアパートの玄関先に居たんだ?」
「話題を変えて、誤魔化そうって魂胆っスね?」
「イヤ、そんな邪(よこしま)なコトは……」

 彼女は、天空教室ではあまり目立たない生徒だった。
今初めて、素顔の天棲 照観屡を知った気がする。

「このアパート、ウチのじいちゃんがオーナーなんスよ」
「そうだったのか。でも、もう直ぐ道路の拡張工事で、取り壊されるんだよな」

「このアパートは、じいちゃんが最初に買った物件なんスよ。昔は、死んだ祖母ちゃんと一緒に住んでたみたいで、思い出のたくさん詰まったアパートだって言ってたっス」

「ボクも、随分とお世話になったからな。今となっては名残り惜しいよ」
「それ、最初はボロアパートだって、思ったってコトっスよね?」

「そ、そんなコト思ってなんか……」
「ムリして取り繕わなくて、いいんスよ」
 少しでも油断していると、揚げ足を取って来る。

「廊下を歩けばラップ音が鳴るし、電気配線が剥き出しの四畳半の部屋なんて、昭和を題材にした映画でしか見ないっスからね」

「それも今となっては、良い思い出の笑い話さ」
 思えばこのアパートに暮らし始めたのは、大学に入った時だった。
それから大学生活を四年間過ごし、就職浪人を経て今に至る。

「テミルは、ボクに立ち退きを言い渡しに来たのか」
「それもあるっスね。じいちゃんに、中々立ち退きに応じない住人がいて、困ってるって聞いてはいたんスよ」

「わ、悪かったな。つい忙しさに、かまけてしまって」
 ボクは三つ編みお下げの少女に、部屋の鍵を還した。

「どもっス。ちなみに荷物は、もう纏めたんスか?」
「男の独り暮らしだから大したモノは無いし、大きな家具は実家に送ってあるよ」

「一応、念のためにチェックするっス」
 つい数分前までボクが暮していた、部屋のドアを開けるテミル。

「うん、問題無いっスね。冷蔵庫や洗濯機も、実家に送ったんスか?」
「いや。冷蔵庫は小型だったから、リサイクルショップに持ち込んで買い取って貰った」

「洗濯機は?」
「春先に故障して、捨てた。それからは、コインランドリーを使っていたよ」
「いかにもな、男の独り暮らしっスね」

 テミルは、一通り部屋をチェックた後、再びドアに鍵をかけ外に出る。
地下鉄の駅の方向に歩き始めたので、ボクも隣に並んだ。

「どうせ取り壊されちゃうんで、原状復帰とか無いっスけど、キレイに使ってくれてたんスね」
「そうかな。各段、意識してはなかったが」
「真面目で几帳面なんスねえ、先生は」

「良く言われるよ。融通が利かないって意味を、含んでいる気もするケド」
「それ、当たりっスよ」
 テミルは、街中のビルの前で止まった。

「ん、どうして立ち止まるんだ。駅はまだ……」
「ここ、わたしの実家なんスよ」
 ビルの一階にはテナントが入っていて、店の窓や壁には色々な部屋の情報が貼ってある。

「ここって……不動産屋だよな」

「ようこそ、『プニプニ不動産』へ」
 三つ編みお下げの少女は、丁寧なお辞儀をした。

 

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