ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第15話

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緊急手術

 キアを乗せた救急車が病院に着くと、マスコミの記者が周りを囲んだ。

「少女は本日より始まった、ユークリッドの学校教室動画の生徒さんですよね?」
「本来は今日の放送で、参加されるハズだった生徒が、どうして救急車で?」
「どうやら意識はない模様ですが、一体どういった経緯なのでしょうか?」

 救急隊員の前を塞ぐように、殺到するマスコミ。
意識の無いキアを乗せた滑車付き担架に、容赦なくフラッシュを浴びせ、ボクにマイクを向ける。

「何なんですか、あなた方は!」
「道を開けて下さい、患者は意識が無いんですよ」
 救急隊員たちは、彼らのバリケードを強引に押しのけ、病院への突入を試みた。

「あなたは天空教室の、先生ですよね」
「彼女は、あなたの生徒さんじゃないんですか?」
「どうして生徒が、意識を失って運ばれて来ているのでしょうか?」

 『正論』という武器を手にした記者たちは、勝ち誇ったようにボクを質問責めにする。

「マスコミの方は、病院内へは入らないようお願いします!」
「これ以上混乱するようでしたら、警察に出動要請をするコトになりますよ!」
 中から職員や警備員も駆けつけ、担架は何とか病院内に雪崩れ込んだ。

「一体、何があったんですか。こんなに大事になるのなら、専用の入り口に付けたのに」
 翡翠色の手術服を着た医師が現れ、ボクに言った。

「申し訳ありません。ボクも、こんなコトになっているなんて、想像も……」
「とにかく、直ぐに集中治療室に運びます。脳内出血が見られますので」
 手術室のドアが閉まると、その上にある表示板が赤く点灯する。

 そこには、『手術中』と大きく書かれていた。

「どうか助かってくれ……キア……」
 診療時間をとうに過ぎていた病院の内部は、妙に暗くて気持ちを不安にさせる。
どれくらいの時間が過ぎたのか、ボクは時の感覚を失っていた。

「せ、先生。キアは、どうなのッ!?」
 一人の少女が、ボクの座るソファの前に駆けて来る。

「まだ手術中だ。ユミア、キミもマスコミに囲まれたりは……」
「そんなのは慣れっこよ。それより、どうしてこんなコトに?」

 ボクは栗色の髪の少女に、今日あった一部始終を話した。

「前日の帰り際、キアは不安で心配そうな顔を見せたのに……」
 目から勝手に、涙が零れる。

「先生……」
 腕に顔を埋めて座るボクの前に、ユミアが立った。

「ボクは彼女の出したサインに、気付いてやれなかった」
 後悔が、心の中を埋め尽くす。

「大丈夫よ……キアは、きっと」
「ど、どうして……そんなコトが……」

「キアは、前向きで強いコよ。それに、大阪弁だしね」
「な、なんだよ、それ。関係あるのか」

「あるってコトに、して置きましょ」
 ユミアの声は、母親のように優しかった。

「ああ……そうだな」
 ボクは、ボクを雇った生徒に励まされる。

 手術中の表示が、一向に消えない。
でも今は、キアの生命力を信じよう。
教師にできるコトなんて、結局のところ生徒を信じるくらいだ。

「……ん」
 肩に圧力を感じたので隣を見ると、目を閉じたユミアが寄りかかっている。

「やはりキミも、疲れていたんだな」
 ボクは上着を脱いで、彼女にそっと掛けた。

 それから直ぐに、手術中の表示灯が消え、中から翡翠色の服を着た医師が出て来る。

「先生、キアは……キアは、どうですか?」
「大丈夫ですよ。ただ、頭ですからねえ。どこかに障害が残るかも知れません」
 教え子が助かったコトに安心したと同時に、彼女に障害が残らないコトを切に願った。

「手術は成功しましたが、当面は面会謝絶です」
「解りました。生徒を救っていただき、本当に有難うございます」
 ボクは、深々と頭を下げる。

「今どき、先生なんですね。ああ……別に悪く言ってるワケじゃあないですよ」
 マスクを外した医師は、40代くらいの爽やかな感じの顔だった。
「ボクらの時代は、学校があるのが当たり前で、先生が居るのも当たり前でしたからね」

「ボクは、ユークリッドで教師をやっています」
「そうでしたか。マスコミ連中が騒いでいた理由も、何となく想像が付きます」
「ご迷惑をお掛けし、申し訳ありません」

「イヤイヤ。それより裏口に、タクシーを手配しましょうか?」
「そうしていただけると、助かります」
「生徒さん……どうします?」

「起こすのもアレなんで、ボクがタクシーまで抱えて行きます」
 医師が立ち去ると、ボクは眠ってしまったユミアを抱え、病院の廊下を歩いた。

 

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