ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第14話

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失われた時

 ボクは、冷たくなった二人の少女を抱える。

 一人は真っ赤なツインテールで、もう一人は茶色味がかった黒の、小ぶりのツインテールだ。

「キア、しっかりしろ!」
 赤毛の少女の頬を叩くが、反応は無い。

「シアちゃんも、返事をしてくれ!?」
「ん……んん……」
 妹の方は僅かに反応があったが、右の頬と左目が蒼く腫れている。

「キ、キア姉ちゃん、死んじゃったの?」
「ヤ、ヤだよォ!?」
 キアとシアの、双子の妹が心配そうに問いかけて来た。

「大丈夫だ、ミアちゃん、リアちゃん。息はある……」
 ボクはスマホを取り出そうと、キアの頭から手を離す。

「こ、これって……!?」
 真っ赤な髪で気付かなかったが、彼女の後頭部にはベットリと大量の血がついていた。

「玄関に居た父親の、ビール瓶にも……」
 キアは実の父親に、凶器となるガラスの瓶で殴られたのだ。
状況から察するに、妹のシアを庇ったのかも知れない。

「オイ……なにしてんだ?」
 酔っぱらいが、玄関から戻って来た。

「今、病院に連絡しています。貴方も、殺人鬼なんかになりたくないでしょう!」
 ボクは男を威嚇しながら、スマホで119番に電話する。

「オレを、警察に突き出す気だろ……おおッ!」
 男はボクに、掴みかかろうとでもしたのだろう。
けれども泥酔した男は、テーブルの脚につまずいて転んでしまった。

「もう止めて、お父!」
「お姉たち、死んじゃうよ」
 パニックになって、亡き崩れる小学生の双子姉妹。

「親に逆らうから、こうなるんだ……まったくどいつもコイツも、オレを……」
 ブツブツと小言を呟く男は、立派なこの家の主なのだ。

「ケッ、温くなっちまってやがる、まあ……いいや」
 男は、自分が冷蔵庫の外に放り出したであろう、缶ビールを開け飲み始める。

 暫くすると、救急車のサイレンが響き、白衣の救急隊員たちが玄関に現れた。
ボクは、双子姉妹に目で合図を送る。

「ウ、ウチらが出るね」
「先生は、お姉たちをお願い」
 二人は、隊員たちを家の中へと導き入れる。

「い、一体、何があったのです。ケガ人は、その子たちですか?」
「はい。姉の方は、頭を瓶で殴られてます。妹も、顔に傷が……」
「では、担架を用意しますね」

 それからの彼らは、迅速かつ冷静に行動し、キアとシアの容態を詳しく確認する。
ボクは酩酊した父親の替わりに、状況を説明をした。

「先生。救急車への同行をお願いできますか?」
「ええ。でも、彼女たちが……」
「二人の妹さんは、こちらで保護します」

 ボクは、担架に乗せられた二人の後に続き台所を出ると、物で溢れかえったリビングに、二人を呼び出した。

「キミたちは、児童相談所が保護してくれる。明日、迎えに行くから」
「お姉は、大丈夫なの?」
「ああ、病院に連れて行けば大丈夫だ」

「お、お父はどうなるの?」
「隊員の一人が残って、見てくれるから」
 ボクは、二つの嘘を付いた。

 キアの容態は、予断を許さないと説明を受けたし、父親は警察に引き渡されるコトになるだろう。

「では、先生……」
「はい」
 ボクは、リビングを出ようとするが、何かが足に当たった。

 それは、ひび割れた写真立てであり、中には家族の写真が入っている。

 ボクはそれを、直ぐにテーブルに置き、立派な白い家を出た。
外には、白いワゴンが真っ赤なライトを回転させながら、止まっている。

 ボクは、キアの救急車に乗った。
シアは傷の度合から、新たに手配された救急車に乗せられる運びとなる。


「お、お父……や、やめ……」
 救急車の中で、キアが脂汗を流しながらうなされる。

「写真立ての中で、お前は……」
 真っ赤なツインテールの少女は、三人の妹と仕事のできそうな父親、優しそうな母親と共に、満面の笑みを浮かべていた。

「そんなに昔のコトじゃ、無いだろうに……」
 ボクは、キアの家族が失ってしまったモノの重大さに、衝撃を隠せなかった。

 

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