王都の激闘7
廃墟と化した王都を見降ろす丘に、かの国の国王が夕日を背に立っていた。
「王よ。王のお力添えで、国民の多くを救うコトができました」
片膝を付き、頭を垂れる歴戦の老将。
彼の背後には、難を逃れた国民が大勢付き従っている。
「このセルディオス、再び王と轡を並べて戦いに挑めたコト、万感の想いにございます」
けれども、既に死人となっていた王は返事をしない。
「奇妙なモノだな。アンデットとなった王の戦いぶり、老齢とは思えぬ強靭さであったわ」
騎士国家の代表、ジャイロス・マーテスが感嘆した。
「誰かが使った、リ・アニメーションの魔術の影響でしょうよ。アンデットと化すコトで、永遠の命を望む者もいるくらいだからね」
魔導国家の代表、リュオーネ・スー・ギルは、自らの見解を述べる。
「でも、与えられた仮そめの命も、あと僅か……」
神聖国家の代表、ヨナ・シュロフィール・ジョの言った通り、王は橙色の太陽の光に溶けるように消えて行った。
「国を護ろうとした王の志、我らが必ずや果たしましょうぞ」
東国より落ちた伸びた侍や忍びたちの国家代表、カジス・キームスは、夕日に決意を示す。
「キレイ事は、抜きにしようや、カジスの旦那。アンタんトコは既に、部下を皇女の元へとやっているって話じゃねえか?」
獣人の国家代表、ラーズモ・ソブリージオが、訝し気な顔をカジスに向けた。
「可笑しなことを申すな。皇女殿下に王都の危機を知らせる為の、ただの伝令だ」
「どうだかな。皇女に取り入って、元帥長の座を狙っているんじゃねえのか?」
「イヤイヤ。もっと尊大なコトを、計画してるのかもね」
「なにを企んでるってんだ、リオーネ?」
「そりゃあ皇女を、妻にするコトでしょうよ」
「下らん戯言を。我に、そのような野心などござらん」
「人の心のウチなど、知れたものでは無いわ」
「そうね、ジャイロス。アンタも男だし、同じコト考えても不思議じゃなくてよ」
「我ら騎士は、主に絶対の忠誠を誓うのだ。侍如き下郎と、同じにするな」
「聞き捨てならん。騎士とて主に背いた者も、大勢いるでござろう!」
騎士と侍は、自らの剣の鞘に手を掛ける。
「お止めください、お二人とも。王が身罷られたばかりだというのに!」
「ヨナ様の仰られる通り。今はまだ脅威が、完全に去ったワケでは無いのですぞ」
業を煮やしたヨナと、セルディオスが、権力争いを始める者たちを諫めた。
「フン、まあいいさ。オレは、皇女に部下を派遣するコトにするぜ」
「わたしも、選りすぐりの騎士を選抜しよう」
「わたしはパ~ス。権力争いより、魔導探求の方が面白いし」
「困ったモノですな、ヨナ様」
「ええ。ですが仕方ありません。ヤホーネスは王を失い、今まで抑えられていたモノが、抑えられなくなっているのです」
雲が晴れて現れた夕日も、山の彼方へと没しようとしていた。
「魔王との戦い、見事であったぞ、雪影よ」
オレンジ色の軍団を率いる男が、白紫色の髪の剣士に声をかける。
「此度はご助力いただいたにも関わらず、サタナトスを討ち漏らしてしまい、申し訳ござらん」
グラーク・ユハネスバーグに、不器用ではあるが謝意を伝える雪影。
「謙遜すんなって。魔王を相手にアレだけの戦いができるだけでも、凄まじいモノだぜ」
「そうですよ。単騎で魔王を倒してしまわれたのですから」
グラークの後ろに従った二人の騎士が、剣士の武勇を褒め称える。
「単騎では……ない。コヤツらの協力があった」
「フン、別に協力してやったワケじゃない」
「我らは、我らの戦をしたまでよ」
「素直じゃないな。ネリーニャもルビーニャも」
「でも、二人の力添えがあったのは事実です。方法は問題アリですが」
双子司祭も、二人の存在を認めつつあった。
「だが、サタナトスはまだ、生きている」
「そうだな、雪影。ニャ・ヤーゴへと帰還し、対策を考えるとしよう」
オレンジ色の軍装の部隊は、剣士たちを伴い帰路に就く。
こうして、ヤホーネスの王都を巡る戦いは、終わりを告げた。
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