ラノベブログDA王

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キング・オブ・サッカー・第ニ章・EP006

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腹筋百回

 深緑色と茶色の迷彩柄の機体が、凄まじい轟音と共に近づいてくる。

 まるでプラモデルの様だった輸送機は、徐々に巨大になり、河川敷のボクの上を通過して行った。

「ここが、倉崎さんの言っていた、三人目の……」
 ノートに書かれていた、スカウトの対象となった高校生は、自衛隊基地の近くに住んでいる。

「でも、このノートに、ボクの名前は書かれてない……」
 倉崎さんは、紅華さんを右サイド、雪峰さんをボランチで使うと言った。
でも、ボクにポジションは無いって言ったんだ。

「よく考えたらボクと倉崎さんは、偶然会っただけだモンな」
 腕も足も伸ばし、川べりの土手に寝転がる。

「少なくとも倉崎さんは、ボクをレギュラーとは考えてない」
 正直ショックだった。

「今回の人もスカウトできたら、ボクが出られるポジションも減っちゃうんだよな」
 流石にスカウトの仕事も、やる気がビミョウになる。

「そこの少年、どいてくれッ!」
 どこからか、声がした。

「え……!?」
 ボクは跳ね起き、周りを見渡したものの誰も居ない。

「上だ、上!」
「う、上えええぇぇぇぇ!?」
 真上を見上げると、太陽を覆い隠すように落下傘が広がっていた。

「うわあぁぁぁツ!?」
「ぶつかッ!!」
 ボクは、パラシュートで降下してきた人物と、文字通り接触する。

「も、もし………今の!?」
 あまりの出来事にパニックになって、自分でも何を言いたいか解らない。

「ウム、今の輸送機から、降下して来たのかと聞きたいのだな?」
 男は身体に付いた紐を手繰り寄せ、パラシュートを回収していた。

「否定だ。自衛隊がこんな市街地の真ん中で、降下訓練をするハズがないだろう」
 男は迷彩服のつなぎを着ていて、屈強な筋肉の身体を誇っている。

「このパラシュートは、パラセーリング用の私物だ。かつて、千葉での降下訓練に参加させてもらったことがあってな。その雰囲気を味わうべく、私的鍛錬として行っているのだ」

 そ、それって、完全に違法ですよね?
そう言いたかったのに、口が動かない。
さっきは咄嗟に叫んだケド、初対面の人だと解かるといつもこうだ……。

「自分は、杜都 重忠(もりと しげただ)」
 ええ……ノートの、ボクが会いに来た人だ!?

「小真希航自・第五学校に所属している」
 杜都さんは自己紹介を終えると、敬礼をした。

「ところで貴官は、なんという名前……ン、名刺?」
 ボクの常套手段である。

「貴官は、御剣 一馬と言うのか?」
 コクコクと頷くが、もちろん官職に付いた記憶など無い。

「デッドエンド・ボーイズ・サッカークラブ……か」
 名刺を見ながら、杜都さんはボクの身体を触り始める。

「左足に、かなり多く筋肉が付いている。左利きのサッカー選手なのだな」
 うう……倉崎さんにも見抜かれたケド、そんなに直ぐに解かっちゃう?

「自分も修練の一環として、サッカーをやっていてな」

 知ってます。
今日は、あなたのスカウトに来ました……って、言えればなあ。

「自分も、いずれ自衛隊に入隊して、この国の防衛を担う所存でいる」
 杜都さんは上半身のつなぎを脱ぎ、その場で腕立てを始めてしまった。

「……が現在は、見習い候補生の身分だ」
 鈍い色の金髪が揺れ、褐色の肌に汗が滴ってる。

「ところで貴官は、何やら悩みを抱えているな」
 え……!?

「どうやら、図星のようだ」

 顔には出ない方なのに……それでよく、誤解されちゃうケド。
今度はパラシュートのリュックを外し、腹筋を始める杜都さん。

「それは……サッカーに関するコトか?」
 ボクは、コクリと頷いた。

「そうか。世の中には、結果が出ないときもあるし、誰も認めてくれない時もある」
 ……今のボクが、それだ。

「だったら、鍛錬あるのみだ!」
 え……ええ!?
「さあ、腹筋百回!」

 周りには、犬の散歩をしている人がいて、近所の子供も遊んでいる。
「貴官も無心になって、身体を鍛えろ!」

 えええええぇぇぇぇッ!?
ボクは心の中で叫びながらも、森都さんの腹筋に付き合っていた。

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