ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第05章・09話

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チキンバーガー

「じゃあ本題に入るわね、宇宙斗くん」
 十二人のアマゾネスを率いた女王ペンテシレイアは、サファイア色の長い髪をテーブルに零しながら頬杖を付く。

 古代ギリシャの叙事詩、イーリアスにおいて。
女王を含む全員が、英雄アキレウスやギリシャ軍によって、命を落とす運命にあった。

「わたしたち十三人は、これからアナタの学園に編入するわ」
「で、でも、ペンテシレイアさんたちって、大学生ですよね」
「ええ、だからもちろん、クロノ・カイロス大学にね」

 そんな大学も、存在するのか……ヤレヤレ。
記憶を改変できれば、何でもアリなんだな。
ボクは、ハンバーガーショップの大きな窓から見える、空を見上げた。

 この平凡な青空も、透明なドームに投影された偽りの空に過ぎない。
その向こうには、星々が浮かぶ漆黒の海が広がっていた。
けれども、今はセノンや真央も、ペンテシレイアたちも、偽りの記憶を真実だと信じている。

「記憶ってのは、こうも曖昧なモノなのだろうか?」
「急にどうしたの、宇宙斗くん!?」
「今って西暦何年だ?」

「二千二十一年だろ、ホントどうしたんだよ、宇宙斗」
「何でもないよ、真央。ゴメンな」

 二十一世紀と、西暦すら廃止された千年後の未来が、ごちゃまぜになった記憶。
アナログの教科書には、千年の間に起きた事象が記され、彼女たちの首にはコミュニケーションリングが光輝いている。

「ま、記憶なんてのは、どうとでもなるぜ」
 パーテンションを隔てた席から、プリズナーたちの会話が漏れ聞こえた。

「人間の記憶は、脳のシナプスが記憶領域に蓄えた、微弱な電気信号に過ぎないわ」
「記憶喪失なんてのは、記憶領域が破壊されたか、その経路が断ち切られたかだ」
「つまり、記憶経路を偽りの情報に誘導するだけで、人間の記憶は簡単に置き換わるのよ」

 脳が見ている記憶……か。
もしかしたら操作されているのは、ボクの記憶かも知れないな。

「ねえ、舞人くん。どうしたの、ボーっとして」
「ああ、少し考え事をね」
 セノンが、不思議そうにボクの顔を覗き込んでる。

「ところでさ。ウチの学園と友好関係を結んで、それでなにすんの?」
「そうね。まずは、トロイア・クラッシック大学に来て欲しい」
 ペンテシレイアが答えると、彼女の取り巻きも話し出す。

「実はウチの大学には、厄介なライバル大学があってさ」
「今、そこともめてるんだよね」
「クロノ・カイロス学園と仲良くなって、牽制しておきたいってとこかな?」

 巨大軍事企業との交渉も、女子トークに落とし込めば、この程度の内容でしかない。

「国家間の交渉だろうと、幼稚園児の約束だろうと、実は大して変わらないのかも知れないな……」
「なんの話してるの?」

「ハンバーガーも、ステーキも、中身は同じ牛肉って話」
「宇宙斗くん、それ……チキンバーガーだよ」
「……」

 巨大軍事企業・トロイア・クラッシック社との交渉は、ハンバーガーショップでの女子会という形で、幕を閉じる。
実際に、それ以上話す事も無かった。

 ハンガーへと戻った、ペンテシレイア率いる十三人のアマゾネス戦士たちは、本社と連絡を取る。
デイフォブス=プリアモス代表と回線を繋ぎ、ありもしない会議の内容を伝えていた。

「これで、この艦の機密は保持されたワケだ」
『はい、艦長』
 べルダンディは、悪びれる事無く答える。

『今の彼女たちは、立派な会議室で論理に基づいた議論を重ね、お互いの合意文章に署名した記憶しかありません』

「記憶とは、恐ろしいモノだな。それが真実かどうか、確かめる術はないんだ」

 この時のボクは、自分が言った言葉の本当の意味に気付いて無かった。

 

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