クラブ運営
「クソ、これじゃまったくの、噛ませ犬じゃねえかよ!」
紅華さんが、悔しそうに言った。
「心配するな、紅華。お前のドリブルは、本物だ」
「雪峰に止められ、そこの無口なスカウトにまで止められてんのにっスか?」
倉崎さんの言葉を、素直に受け取れないんだ……。
「お前には、デッドエンド・ボーイズの右サイドをやってもらう」
「ま、けっこうやった、ポジションっスけど」
「左利きの紅華に、右サイドを任せる……」
雪峰さんも、会話に加わって来た。
「コイツに、シャドウストライカー的な役割も、期待していると?」
「そうだ。斜めにカットインして、ゴールを決めるのもアリだ」
「得点かぁ。そんなに期待されてもな」
「キーパーまで得意のドリブルでかわせば、無人のゴールに流し込むだけだろう?」
「簡単に言いますね、倉崎さん」
「サッカーは、シンプルに考えるのがベストだ」
「ボランチのオレに対しては、要求(オーダー)ありますか?」
「そうだな。まずはセカンド・ボランチとして、的確に機能してもらいたい」
「……ダブルボランチを、採用するんですか?」
「まだわからんが、中盤は厚くしたい」
「ってコトは、ポゼッション・サッカーっスか!」
「守って勝つのもアリだとは思うが、オレの性に合わん」
「さっすが、倉崎さん。オレ、そ~いうサッカーしたかったんスよ」
「紅華、お前は少し黙っていろ」
「な、なんだと、雪峰!」
三人で、どんどん話が進んで行く。
でも、自分のチームなんだし、戦術を理解するのは大切だよね。
「雪峰、お前はチームの頭脳であり、司令塔だ」
「指揮者(コンダクター)として、パスでゲームを組み立てろと?」
「攻撃に関しては、それでいい。問題は……」
「守備の強度不足……ですか?」
「流石は優等生。正解だ」
「ボールを奪われない、キープ力……」
「理想はそうだ」
倉崎さんが、クスっと笑った。
「だが、『どうやってボールを奪われるか』も、重要だぞ」
「ど、どうやって、ボールを奪われるか……ですか?」
「アハハ……優等生のお前でも、直ぐに正解はわからなかったようだな」
雪峰さんすら、煙に巻かれてる。
「ところで倉崎さん。彼はどこのポジションを任せるんです?」
「オレも手こずったし、お前とのダブルボランチじゃね?」
「一馬か……」
うわあ、三人がボクの話をしてる!
ど、どこのポジションになるんだろう?
「一馬のポジションは……無い」
……え?
「で、でもアイツ、中々のディフェンス力っスよ」
紅華さんがフォローしてくれてる!
「現状、メンバーはウチら三人なんスから」
「何の冗談を言っている、紅華。ここにいるのが全員だとでも?」
「オレも最初聞いた時は、耳を疑ったぜ」
ボ、ボクも!
「それでは当面は、同好会に近い感じで、クラブを運営していくと?」
「いや、バイト並みだが給料も支払われるし、プロサッカークラブとしてやっていくみてーだ」
紅華さんが代弁した。
「……それがだな、雪峰。実は……」
満ち溢れた倉崎さんの自信が、急激になくなる。
「それでは倉崎さんは、なんの準備もせずサッカークラブを立ち上げ、地域リーグに参戦しようとしてたんですか!?」
元々色白の雪峰さんの顔色が、真っ青になった。
「ち、地域リーグの開幕は六月だし、申請は出してあるぞ?」
「現状三人ですよ。あと、最低八人は必要です!」
「だがまあ、三人集まったんだ。三か月あれば……」
「ホームグラウンドや練習場、サポーターを増やす算段はどうするんです?」
「ど、どだろうか……」
「どうだろうかじゃ無いっスよ、倉崎さん!」
「プロサッカークラブを運営するのであれば、法人としての手続きも必要となって来ますが、ちゃんと解かってますか?」
倉崎さんは、『なにソレ、美味しいの?』という顔をしていた。
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