生身の身体
時の魔女が用意した、宇宙艦・MVSクロノ・カイロス。
2400メートルはある巨大な宇宙艦は、前方部がドームとなっており、その中に街が存在する。
街では大勢の人が暮らし、『疑似的なニ十一世紀』が再現されていた。
「では、参りましょう。お姉さま」
「今日は、何になさいますか?」
「そうですわねえ……」
クーヴァルヴァリアに纏わりつく、十一人の女子中学生。
自動ドアが開き、ハンバーガーショップに入店する。
「今日は、ダブルチーズにすっかな?」
「てりやきバーガー一択……」
「アタシは、フィッシュフライだな」
真央、ヴァルナ、ハウメアも、それに続いた。
「宇宙斗くん、わたしたちも入ろ」
セノンも店へと、入って行った。
「宇宙斗くん……か」
目の前で、自動扉が閉まる。
「クーリアたちも、セノンたちも、みんな……」
ガラス扉の向こうで、楽しそうに注文をしている少女たち。
「自分が、女子高生や女子中学生であるコトに、何の疑問も抱いていないんだな」
「そう言うこった。時の魔女のもう一隻の艦が、二つの軍事国家の艦隊を乗っ取ったように、アイツらも記憶を乗っ取られ洗脳されてやがるのさ」
短ラン姿のプリズナーが、透明なガラスにもたれ掛けながら言った。
「この艦は、まだまだ謎だらけよ」
バイオレットのクワトロヘアの女子高生が、指摘する。
「わたしも、このコたちも、この街じゃ生身の体を与えられてるケド……」
彼女は名を『トゥラン』と言い、プリズナーの相棒のアーキテクターだ。
「そう認識させられている、だけかも知れないわ」
「機械の体であるトゥランやラサたちが、どうやって生身の身体を得ている?」
「さあな。この街に入ったら、こんな格好になってやがったんだ」
「フォログラム……みたいな可能性は、無いのか?」
「ああ、どうやら違うみてーだ」
「アナタたち、艦長に頬ずりして」
「はーい!」「りょーかい!」
ラズベリー色の髪の四人の女の子が、ボクの腕に頬っぺたを擦り寄せる。
「暖かい……ぷにぷにの頬っぺただ」
彼女たちは、トゥランの四本の髪に収められている、小型アーキテクターだ。
それが触った感覚では、六十人の娘たちと同じ触り心地なのだ。
「どうやら、生身の体を本当に得ている感じなんです」
「でも、どうやったら、そんなコトが……!?」
解けない謎が頭を埋め尽くしたとき、自動ドアが開く。
「もう、いつまで喋ってるの、宇宙斗くん」
「あ……ああ、ゴメン」
栗色の髪の女の子に手を引かれ、ボクは店内へと入った。
「チキンバーガーセットを下さい……」
「宇宙斗くん、わたしと同じだぁ」
「そ、そうなの?」
「そうだよ」
階段を登る、セノンの可愛らしいお尻が、目の前で揺れる。
「わたしたち、とっくに注文して二階で食べてたのに、ちっとも来ないんだモン」
「遅い。なにやってたんだ?」
「もう、殆ど食べちゃった……」
「でもセノンだけ、何故か手付かずだケドね」
「うわあ。な、なに言ってるの、ハウメア!?」
隣で、茹で蛸みたいなセノンが怒っている。
何なんだ……この、アニメかゲームみたいなシナリオは?
ご都合主義に、様々な個性の美少女たちが溢れる空間。
こんなの、千年前のボクじゃ考えられなかった。
「オ、オペレーター三人娘たちが、揃ってるな」
「はあ、なにその設定?」
ヴァルナが、冷たい視線でボクを見る。
やはり彼女たちに、MVSクロノ・カイロスの艦橋で、オペレーターをやっていた記憶は無かった。
「アハハ……なんでも無いよ」
照れつつも、周りを確認しながら席に着く。
クーリアたちも、プリズナーたちも、それぞれ別の席に陣取っていた。
「ヤレヤレ。こんなんで、軍事企業との交渉ができるのか?」
小声で呟きながら、ポテトを頬張る。
すると階段から、グラマラスな身体をした九人の女性たちが上がって来た。
「宇宙斗くん、お招きありがとう」
その中で、一人だけド派手な金色のスーツを着た女性が、セノンを押しのけボクの隣に座る。
「今日は、楽しいデートになるといいわね」
サファイア色の長い髪をした彼女は、ペンテシレイア・シルフィーダだった。
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