二つの悪い話
ボクたちは閉ざされたドアの前で、しばらく立ち尽くしていた。
「先生、もう行こうよ。タリアが帰って来るとは思えないし」
「レノンは、どうしてそう思うんだ?」
「昔よく、一緒につるんでたからね。アイツの性格は知ってるんだ」
「誰が性格を知ってるって?」
いつの間にかレノンの背後に、タリアが立っていた。
「うわああッ、タ、タリア。どうしてここにィ!?」
「どうしてって、ここは今のアタシの家だからね。ふわ~あ」
フードの少女は、眠そうに欠伸をする。
「やはり、寝て無いんですね。酷い生活環境のようですが……」
「えっと……ライアさんだっけ?」
「はい、貴女のクラスメイトですよ」
「ゴメン……迷惑かけちゃって……」
「ですが彼女たちを助けるために、した行為なのでしょう?」
ライアはアパートを尋ねていた、中学生の少女たちに視線を向ける。
「わ、わたしたち、テニスサークルの帰りに、男たちに襲われて……」
「美乃栖先パイに、危ないところを助けてもらいました」
「今日は、お礼にうかがったんです」
「そっか。わざわざ、アリガトな……」
不器用に照れる、タリア。
「でも、ここじゃまた、叔父さんが怒り出すかもな」
「別に、怒らせとけばいいジャン!」
「まあこっちは、居候の身だからね。バカライオン」
「バカライオン言うな!」
ボクたちはタリアに付いて行き、近所の公園へと移動する。
振り返ると、七人のジャージ姿の女の子たちも後ろを歩いていた。
「キミたちも、警察に色々と聞かれて、大変だっただろう?」
公園に到着すると、ボクは話を切り出す。
「いえ、タリア先パイに助けてもらったんです」
「協力するのは、当然なんですケド……」
少女たちの表情は、暗い。
「親御さんが……反対してるのか?」
「はい……あまり事件を、明るみにしない方がいいって……」
「先パイとも、会わない方が身のためだって言うんです!」
「酷いと思いませんか?」
「自分の娘が、助けてもらったのにですよ?」
それから話を聞くと、皆が親から似たような事を言われたらしい。
「アタシは、そうは思わないね」
フードの少女が言った。
「親は誰だって、自分の娘が可愛いモノさ」
「で、でも……」「先パイ!」
「アタシみたいなのと、関わらない方がいいよ」
「そうかな、タリア」
ボクは小さなベンチに、腰を下ろしながら言った。
「せ、先生?」
「ボクはむしろ、積極的に関わるべきだと思っているよ」
「そんなコトをすれば、このコたちに危険が及ぶかも知れないんだ」
「アタシも、同感かな。せんせー」
滑り台の上に登った、ゴージャスな金髪の少女。
「タリアがボコッたヤツら、退院したら何するかわかんないよ」
「可能性は高いですね」
ブランコに座ったライアも、レノンの意見に同調する。
「この辺りの治安からすれば、どんな人間かは容易に想像できます」
「一度彼らには、会ってみようとは思ってる」
「先生が、そこまでする必要は無いだろ」
「あるさ。キミはボクの生徒だ」
「今時ずいぶんと、生徒想いな先生ですなあ」
そう言いながら、公園に二人の男が入って来た。
「おや、この台詞は二度目でしたかな?」
一人は、警察署でボクと話した初老の警察官だった。
「その説はどうも。なにかあったんですか?」
嫌な予感がする。
「それがですなあ、先生……」
ボクの隣に、重そうな腰を下ろす警察官。
「二つ、悪い知らせがあるんですわ」
「ええ、二つも悪い知らせを持って来たの!?」
「バカライオン、パンツ見えてっぞ」
タリアに注意され、慌てて脚を閉じるレノン。
「まず一つ目は、ヤツら弁護士を立てて、今回の事件を訴えて来ました」
「そうですか……」
あまり当たって欲しくは無かったが、予測した範囲の事だった。
「盗人猛々しいとは、このコトですね」
「それで、もう一つは……」
「わたしはデジ……機械には疎いんで、コイツが説明しますわ」
初老の男の隣には、若い警察官が立っていた。
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