河川敷の決闘(デュエル)
ボクは雪峰さんを伴って、河川敷の練習場に向かおうとする。
ウチの高校からは近い、河川敷の練習場。
でも、雪峰さんの高校からは、まあまあ離れてるよな。
ボクが不安を感じながら歩き出すと、雪峰さんは付いて来てくれた。
バスを一度乗り継ぎ、練習場へと向かう。
「フム、河川敷の練習場か」
隣を見ると、雪峰さんはスマホの地図アプリで、周囲の情報を見ている。
砂地の練習場には既に、二人の男性が立っていた。
一人はジャージ姿で、サングラスをかけている。
もう一人の髪は、派手なピンク色に染まっていた。
「よう。来たか、一馬」
「オメー、遅せーじゃねえか。お前の学校、この近くの……ん?」
紅華さんは、ボクに対する文句を途中で止める。
「その後ろに付いて来てんの、誰だ?」
「ま、まさか……雪峰……雪峰 顕家じゃないか!?」
驚いたのは、倉崎さんだった。
『コクコク』と、頷くボク。
なんか今回、上手く行った。
「貴方が、倉崎 世叛……ですね?」
「ああ、そうだ。よく来てくれたな」
倉崎さんは、ゆっくりとサングラスを外す。
「そっか、久しぶりだな、雪峰」
紅華さんも、二本指を立て挨拶した。
「小学生ンときの、選抜チーム以来……って、覚えてないか?」
「いや、覚えているさ……紅華 遠光」
「マジで、名前まで覚えてんのかよ?」
「ずいぶんと、ドリブルの上手いヤツがいると思ってな」
「まあな。それ程でもあるケドよ」
「だが、ドリブルの効果的な使い方を解っていない、頭の悪いヤツだとも思った」
「何だと、テメー。ケンカ売ってんのか!?」
「別に。真実を言ったまでだ」
あわわ、二人が険悪な雰囲気に……!
「ならオレと、勝負すっか?」
「フム。最近ボールは蹴ってないが……いいだろう」
河川敷の練習場で、二人の一対一が始まった。
「ンじゃ、お手並み拝見と行くぜ!」
紅華さんが、仕掛ける。
ボールを脚で挟んで肩越しに浮かす、トリッキーなフェイントだ。
「あ……」
雪峰さんの身体が、ボールの行き先にある。
「おわっと!?」
慌てて身体をぶつけ、ボールをキープする紅華さん。
今のプレーに反則を取る審判も、いるんじゃないかな?
「今のは一馬。ボールの軌道を予測し、相手の動きも読んでのプレーだ」
ス、スゴイな、雪峰さん。
「油断したぜ。だが、次はどうかな?」
紅華さんは、シザースとエラシコの連続フェイントを繰り出す。
ボクとの一対一に、使った技だ。
「脚の動きに惑わされずに、ボールにだけ集中してるな……」
ホントだ。
雪峰さんは、下がらずに付いて行ってる!?
「だがそれは、お前もやっていたコトだ」
そう、でも簡単なコトじゃ無かった。
ボールを見るって言っても、身体を使ってボールを隠してくるんだ。
「オラ、抜くぜ!」
紅華さんはボールを、雪峰さんの視界を遮るように身体で隠す。
……と同時に、左脚でボールを外側に弾いた。
エラシコだ。
ボールにゴムが付いてるみたいに、外側に弾かれたボールはインサイドで切り返され、内側に戻る。
「いや……雪峰は、これを狙っている」
倉崎さんが言った。
「……な、なにィ!?」
紅華さんの表情が変わる。
紅華さんの左脚が、ボールを内側に入れようとしたしたところを合わされた!
伸びきった見えないゴムが、元に戻らない。
ボールは、雪峰さんの足元へと転がった。
「これで解かったか?」
雪峰さんは、学生服に付いた土ぼこりを払いながら言った。
「紅華。お前のドリブルは、無駄が多い。もっと、頭を使え」
「こンの野郎、偉そうに高説を垂れやがって!」
紅華さんは、ボールを奪いに行く。
雪峰さんは何の抵抗もせずに、ボールを明け渡した。
「なんだ、舐めプ(舐めたプレイ)か?」
「別に……オレは大して、ドリブルは上手くないからな」
「ンじゃ、遠慮なく行くぜ!」
けれども紅華さんの学生服は、雪峰さんのモノより遥かに汚れていた。
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