ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第03章・第18話

f:id:eitihinomoto:20190817152737p:plain

命の価値

「ユミアの様子は……どうだった?」
 色々と塞ぎこむ理由のある女子高生の状況を、三人に尋ねる。

「夜中に帰って来てから、ベットに入ってすぐに寝ちゃってたよ?」
 あまり観察力が高く無さそうな、レノンが言った。

「ユミア、何かあったの?」
「何も聞いてないのか、ルクス」
「そりゃあ……まだそこまで親しくないし」

「でも言われてみれば、今朝も落ち込んでいたような気がする」
 カトルの代わりに、双子の姉のカトルが答える。

「ユミア自身に、何かあったわけじゃあ無いんだがな……」
 ボクは三人の女子高生と共に、タワーマンションの受付へと向かった。

「久慈樹社長は本日、出張のためお戻りにはなりません」
 受付嬢の丁寧な台詞は、ボクを少し安心させる。
それは、問題の先延ばしに他ならないのだが。

「ねえ。ひょっとして、タリアが何かやらかしたとか?」
 天空へと伸びる透明なチューブを上昇する、籠の中でレノンが言った。

「あ、ああ……」
 ライオンのようにガサツな女の子の言葉に、ボクは少し驚く。

「いずれ解かるコトだから言ってしまうが、傷害事件を……な」

「ええ、ホントォ……って、障害を受けた側なの?」
 ボーイッシュな双子の、妹の方が喰いついて来た。

「いや……暴漢の男を、何人も病院送りにした側だな」
「あの人、そんなに強かったのか」
 姉のカトルも関心している。

「暴漢たちに襲われていた、女子中学生を助けようとしての行動だ」
「でも先生、それってマズイんじゃないか?」
「理由はどあれ、この時期に障害事件を起こしたとなると……」

「ああ。生徒の起こした問題は、教師の責任だ」
「せ、先生、辞めちゃうの?」

「自分から辞める様なコトはしないが、どう判断されるかは判らない」
 それから、エレベーターが最上階へと辿り着くまで、沈黙が続いた。

「だから言っているでしょ」
 天空教室のドアの前に付くと、中から少女たちの声が漏れ聞こえる。
「タリアは中学生の女の子たちを助けるために、やったんだって」

「だからと言って、暴力を振るっていい道理がありません」
「じゃあどうすれば良かったワケ。女の子たちを、見捨てるのが正しかった?」

「直ぐに警察に、通報すべきでした」
「特撮ヒーローじゃないのよ。警察が到着するまで、何分かかると思てるの」
 言い争っているのは、ユミアとライアの様だった。

「警察が万能でないコトは、理解しています」
「万能どころか、民間人を助けようともしないじゃない」
「それは、貴女のコトを言っているのですか?」

「ええ、そうよ。ストーカー被害に遭っても、何も動いてくれなかった」
「確かに警察にも、限界があります。民間人一人一人に、ボディーガードとして付きそうコトも出来ません。そんな豊富な人員は、ありませんから」

「だったら今回のタリアの行動だって、理解できるでしょうに!」
「出来ません。彼女の行動は、自らの命を危険に晒すモノです!!」
 ライアの振るった正義の剣に、ユミアは言葉を詰まらせる。

「例え万能で無くても、今の日本の法と秩序を護っているのは、警察なのです」
 ピンク色の髪を、宝石で飾った少女はそう言い切った。

「ライア……もしかしてキミの親族には、警察官が?」
 後ろから声をかけたボクに、二人の少女はビクッと反応する。

 二人とも興奮の余り、ドアを開けた音すら聞こえ無かったらしい。

「そうですね……わたしの父は警察官……」
 いつに無く、歯切れの悪いライア。

「いいえ、警察官だった……と言うのが、正しい認識なのでしょうね」

「も、もしかして、ライアのお父さん。殉職を……?」
「そんな格好の良いモノでは、ありませんよ」

 彼女が信条とする正義の剣も、いささか揺らいでいるように感じた。

「ただ、命というモノは一度失われてしまえば……」
「二度と取り返すことはできない……それは、理解できるわ」

 二人の少女の顔が、僅かに穏やかになる。

 

 前へ   目次   次へ