制服
「それでは、今日は国語から始めます。みんな、席につけ~」
頭の大半を占有していた、自分の未熟な授業に対する疑問を、無理やり押し殺して授業を始める。
「みんな、揃っているか~?」
そう問いかけながらも、自分で可愛い教え子たちの顔を確認する。
ボサボサの金髪をかきながら、眠そうにしてるレノン。
オドオドしたアリスに、揺るがない正義の瞳のライア。
神経質そうに教科書の位置をなおす、メリー。
カトルとルクスのボーイッシュな双子も、アロアとエロメのゴージャスな体の双子も机を並べ座っていた。
午前中は、真っ赤なツインテールを振り乱していたキアも、今は焦げ茶色になったツインテールをいじりながら、すました顔をして座っている。
今日でまだ、二日目の授業だ。
お互いに打ち解けるには、まだまだ時間がかかりそうだな。
そう思いつつ独自に作った名簿と、ズラリと並んだ机に座った少女たちを見比べると、二人の少女がいないコトに気付く。
「ユミアとタリアがいない……な?」
悪い予感が、頭をよぎる。
「えへへ、ユミアなら出てったよ」
レノンが言った。
「で、出て行ったって……どうして?」
「昨日の夜、チョ~ット悪戯したら怒って出てった」
「レ、レノン。前ユミアに、何をした!?」
「セクハラです、先生!」
代わりに答えたのは、メリーだった。
「セクハラってなんだよォ。ちょっと胸揉んだだけじゃん?」
レオンの答えに、少しだけ胸を撫でおろす。
「先生。ユミアのヤツ、けっこーデカいぜ。隠れ巨乳ってヤツかな?」
「そ、そうか……」「そうか、じゃありません!」
メリーに怒られた。
「そんなに僻むなって。貧乳が好きな男の人も、中にはいるって話だぞ?」
「それはただの都市伝説です」
哀しい反論をするメリー。
「男などという生物は、一皮むけば本能だけで生きてる動物です。本能的に巨乳を求めるのが、ヤツらのサガなんです!」
ナゼか鋭い視線が、ボクに向けられる。
「……ど、どうかな?」
思わず自分の目が、勝手にそらされる。
「ユ、ユミアは、レノンに胸を揉まれたから、怒って出て行ったのか?」
「そんなワケ、ないでしょッ!!」
振り向くと、膨れッ面のユミアが立っていた。
「アレ、そうなのか?」
「当たり前じゃない!」
「アタシはてっきり、昨日の夜に面白がって揉みまくったから、怒って出てったのかと思ってた」
「ホントに怒るわよ……」
ユミアはそれ以上は無駄かと、反論するのを止める。
「じゃあ、なんで居なかったんだ、ユミア」
「これを取りに行っていたのよ」
ユミアが玄関から運び入れたのは、車輪の付いた移動用のハンガーに架けられた服だった。
「これって、制服じゃん!?」
「昔はこーゆー服を着て、学校に行ってたんですよね?」
「そうだな、アリス。今でも学校に通ってる生徒は、制服を着ている場合が多いな」
同じアパートの卯月さんたちも、制服を着て学校に通っていた。
「おかしな話ですね。教民法が施行されて、教育は民間へと移ったハズなのに、未だに学校に通う生徒が大勢いるなんて」
「そりゃあ、ライアみたいく鉄の自制心を持ってるなら別だけど、多くのコたちは家だと怠けちゃうからな」
「ソレソレ、そうなんだよ。アタシ、家じゃ教育動画なんて見てなかったモン」
「威張るコトじゃあないだろ、レノン」
「エヘヘ。でも、カワイイ制服っていいよね」
「でも、服の好みは人それぞれだから、要望があったら言ってね」
ユミアも、昨日より表情が穏やかに見える。
「もっと胸元が開いた、ゴージャスなモノがいいですわ」
「フリル付きの超ミニスカートなどいかがでしょう、お姉さま?」
ボクは直ぐに、アロアとメロエの意見を却下した。
「ところで、ユミア。タリアは一緒じゃないのか?」
「え、来てないの!?」
「ああ……」
ボクの顔は、不安を隠せなかった。
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