ラングラー
謎の巨大宇宙船に拉致されたボクは、船内の街の中にある銭湯で、想定外のピンチにおちいっていた。
「可愛いコたちが、いっぱいいますねえ?」「!!?」
セノンであろう白い脚が、湯舟に潜水するボクの真ん前に現れた。
「あの……あなたたち、ムギュってしてもいいですか?」
セノンはまた、とんでもない天然要求を、ボクの娘たちにする。
「ん……いいよ?」「しょーがないなぁ」「ありがとなのですゥ♪」
様々な髪色の少女たちを、胸にギュッと抱きかかえるセノン。
「お前、なに意味不明な要求してんだよ? メイワクだろうが!!」
次にお湯の中へと侵入してきたのは、日に焼けた健康的な脚だった。
「あれは真央の脚か? しかし……そろそろ息が、限界だ!?」
ボクはふたたび娘たちの背中に回り込むと、息継ぎを試みる。
「アハハ……パパなんか、タコみた~い」オレンジ色の髪の娘が、キャハハと笑い転げる。
「パパ? 誰かいるの?」次にお湯の中に入ってきた、スレンダーな脚の持ち主が言った。
「ないしょないしょ」「わたし、知らな~い」ふざけて誤魔化す娘たち。
「マ、マズい。あれは、水泳部のヴァルナだ!? なんとか離れないと……」
ボクは再びお湯に潜ると、ヴァルナから離れるように遠ざかった。
不幸中の幸いと言うべきか、ボクが潜っているのは銭湯でも一番大きな湯舟で、二~三十人の娘たちが浸かっている。
「コイツらを障害物にしてやり過ごせば、誤魔化せるかも知れない」
ボクは何とか、チョコレート色の髪の娘の背中までたどり着き、鼻をつまんで息継ぎをする。
「あ、パパだ」「そうだ、お湯入れちゃえ!」「にひひ……入れちゃえ、入れちゃえ!!」
チョコレート色の髪の娘たちは、手でお湯をすくってボクの口に流し込む。
「ブオッフォッ!!? ゲアッハ!!?」
完全にむせ返るボク。
「やっぱ誰かいるよ!!?」「男の人の声ですゥ!!?」
「げぼはあーーーーッ!!?」
生命の危機を感じたボクは、豪快に立ちあがった。
一瞬、無音になる銭湯の女風呂。
「……ッハ、ゼハー、ゼハー、ゼハー!!?」
「……ふえ!?」「……なッ!?」「あ……!!」「ひあ!?」
気道に入った水を吐き出しながら、息を吸うボクの前に四人の少女はいた。
セノン、真央、ヴァルナ、ハウメア……の、まだ純朴な瞳に、ボクの股間が映る。
「ひにゃああ……な、なにしてるんですか、おじいちゃん!!?」
セノンは胸を、娘たちの頭で隠しながら叫ぶ。
「こ……これは!!? コイツらが、貸し切りだって言うから……!?」
「み、見損なったぜ、じいさん!! いい歳して、の、覗きかよ!?」
真央も、娘を二~三人ひっ捕まえてきて、胸を隠しながら叫んだ。
「えっち、スケベ、サイテー!!」「もう、早く出てってよ!!?」
やはり、娘たちの頭で胸を隠したヴァルナとハウメアが、軽蔑の眼差しでボクを睨む。
「わ、わかった……わかったから……許してェ~!?」
ボクは股間を隠しながら女風呂を出ると、すぐさま脱衣所で服を着て一目散に自宅へと駆け出した。
「か、完全に信用も信頼も……何もかもを失った気がする……」
ボクは一人、自宅までの道をトボトボと歩く。
「コミュニケーションリングで記憶の書き換えが可能なら、今の記憶も消えたりしないかな?」
ご都合主義な妄想を考えながら、自宅近辺まで来るとそこには、一人の少女が立っていた。
「黒……乃?」月明かりの下、ボクの目には少女はそう映る。
けれども、辺りに『ゴォ~ン、ゴォ~ン』と重低音が鳴り響き、それまで商店街の月夜を映していた空に、巨大な惑星が映る。
「あ、 あれって……も、もしかして!?」
星が散りばめられた宇宙に浮かんでいたのは、太陽系最大のガス惑星・木星の雄姿だった。
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