銭湯パニック
千年もの未来の宇宙船の銭湯で、六十人もの娘の名前を決めるという、意味不明なミッションをクリアしたボク。
「なあ……サラア」ボクは隣で湯舟に浸かっていた、ピンク色の髪の少女を抱きよせる。
「わたし、サラサだよ?」「じゃあサラサ。キミの主である『時の魔女』は、今どこにいる?」
「さあ? 会ったコトも無いから、わかんない」
「なあ、チャコナ」「だからあたしはチャコサだよ!」
「チャコサ、キミの母親の……時澤 黒乃は今、どこにいるんだ?」
「えっとね。かなり昔に、死んじゃったんだって」
想定内の答えだったが、矛盾もあった。
「なあ、ステア?」「あたし、マテカだよ! もう、パパいい加減にして!!」
「ごめんごめん。ところでマテカは、誰に時の魔女や黒乃のコトを聞いたんだ?」
「ええ!? えっと……それは?」マテカは、同じ髪色の少女たちに助けを求める。
「い……今は内緒!」「そうだよ、ナイショナイショ!!」
娘たちは、誤魔化すようにボクにすり寄ってきた。
ボクは、可愛らしい娘たちの顔を見ながら、可能性を考える。
「まずは、セノンや真央たちのように、六十人の娘たち全員が、何者かによって偽りの記憶を与えられている可能性。だが、彼女たちの首に、コミュニケーションリングは無い」
「もう一つは、彼女たちが嘘を言っている可能性。つまり六十人の娘たちが、時の魔女や時澤 黒乃に、会っている可能性……」
ボクは、宇宙服の胸の隙間にしまった、黒乃の髪飾りを触ろうとする。
「あ、そりゃ無いワケだ。あの時……」
それは宇宙船に入って、数時間後の出来事だった。
「家の近くの曲がり角で、黒乃と思ったセノンに出会って、ボクは……」
気を失い……目を開けたときには学校の授業中で、制服姿だった。
「あの時すでに、無くしていたのか……」
ボクは、黒乃との繋がりが失われたようで不安になる。
すると、銭湯の番台のほうで声がした。
「あれ、番台に誰もいないよのですゥ!?」「ホントだ、でも中から声がするぜ?」
両方とも、聞き覚えのある声だった。
「ここのトメさんなら顔なじみだから、あとでお代払えば大丈夫だって」
「真央がそーゆーんなら、そーする」「ナマカとヒイアカも、連れて来ればよかった」
他にも聞き覚えのある声が、聞こえる。
「うわあああッ!? セノンや真央たちだ!!?」
六十人いる娘たちと、女湯に入っていたボクは慌てた。
「どうして……ここは貸し切りって、言ってなかったか!?」
「あーごめん、パパ」「街のひとは来れないようにしてたんだケド……」
「捕まえたあのコたちのコト、忘れてた、テヘッ♪」
「テヘッ……じゃねえよ、どうすんだよ!!?」
このままでは、セノンたちが更衣室で着替えて、女風呂に入ってくるのは時間の問題だった。
「もう更衣室で、着替え始めてる!? こ、こうなったら……!!」
ボクは男風呂と女風呂を隔てる壁に、よじ登ろうと試みた。
「ほわッ……しま……!!?」ボクは手を滑らせ、湯舟に落下する。
『ドブーーーーン』と水柱が上がり、それが消えると同時にセノンたちが入ってきた。
「あ、先客さんがいらっしゃるのです」「ホントだ。ずいぶんと可愛らしいコたちだね」
セノンとハウメアが、女風呂の少女たちの愛くるしさに感心する。
「でも、えらい数だな?」「しかも、似たような顔がいっぱい……」
真央とヴァルナは、少女たちの数と顔立ちに、驚きを隠せない。
その間にもボクは、可愛らしいお尻の間で身をひそめていた。
「今、見つかったら、ただじゃ済まない……何とか口だけ出して、息を継がないと」
ボクは鼻をつまんで、娘の背中に口だけ出し、呼吸をしたあと再びお湯に潜る。
「ねえ、銭湯なんて久しぶりなのです、マケマケ」
「そうだな、セノン。お前も少しは胸、大きくなったか?」
「ど、どうでしょうか?」「う~ん、お尻なら大きくなってるかな?」
「もう、マケマケのバカぁ!?」洗い場で、女子トークをする少女たち。
「なにジャレあってる?」「はやくお風呂、入ろうよ」
「むぐうう……!!?」
ボクはすでに、限界に近かった。
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