ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第02章・第09話

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三人の女子高生

 翌朝になった。

 カーテンから漏れる暑苦しい日差しが、ボクを容赦なく叩き起こす。
「今日は……いよいよ契約の日か」
瀬堂 癒魅亜に会えると思うと、幾分か緊張も和らいだ。

 洗面台に向かい、顔を洗って歯を磨こうとすると、歯ブラシが限界に近かった。
「もうすぐ立ち退きだってのに、厄介なタイミングだな」
水垢のこびりついた鏡の下の戸から、新品の歯ブラシを取り出そうとした。

「あ、前にかけてたメガネだ。こんなところに仕舞い込んでたのか」
 ボクはそこまで目が悪いワケでは無いものの、メガネは持ってた。
「そういえば、アイツと企業面接周ってた頃は、よくかけてたな」

 ボクはメガネをかけると、年季の入ったトースターにパンをセットし、その間にコーヒーの粉をカップに入れ、湯を注ぐ。
「何年もやってきたルーティーンだけど、これを繰り返すのもあと僅かか……」

 ボクは少しシンミリとしながら、アパートを出る。
すると三人の制服の少女が、アパートの扉に鍵をかけていた。

「おはよう、卯月さんに、花月さん、由利さん。昨日は悪かったね」
「あ、先生」「おはようございます」「けっこう寝不足ですよぉ!」
 挨拶ついでに不満を垂れる、制服の少女たち。

「アレ、グレーに淡いピンク色のチェック柄のスカート……キミたち、もしかして?」
「ああ……今は全員、エウクレイデス女学院に通ってます」
「いつまでも、中学生なワケ無いじゃないですかあ?」

 言われてしまえば、それもそうだった。
「学校教育は、ユークリッドに取って替わられたのに、今でも学校に通うコはけっこういるよね」
「そりゃ、友達作るのとか学校のがいいし」「動画見て勉強っても、家だと他事やっちゃうしさ」

 彼女たちは、学校に対し前向きな意見を持っていた。
「そっか。ちなみに瀬堂 癒魅亜ってコも、キミらの学校だったりしない?」
「え? 先生、ユミアちゃん知ってるんですか?」

「知ってるってホドじゃあ、ないんだケド……」
 ボクはこれから契約する、クライアントとの関係を隠した。

「ユミアちゃん、2~3回学校に来て、それから来なくなっちゃったんだよね」
「そりゃ、自分がユークリッドの先生なんだから、そうなるよね」
「なんか動画と違って、地味な印象だったし」

 三人は、噂好きな女子高生の側面を見せる。
「ありがと。じゃあ、気を付けてな」
「はい」「先生、バイバ~イ」「今度、なんかおごってね」

 ボクは三人を見送ると、地下鉄の駅に向かって歩き始めた。
「瀬堂 癒魅亜……本来ならあの中に混じっていても、おかしくはないんだろう」
地下鉄に揺られながら、変ってしまった教育について考える。

「彼女たちは、ああは言っていたが、教育民営化法案とユークリッドによって、学校の数は激減した。教職員は大量にリストラされ、政府は浮いた財源で年金や老後の介護分野に力を入れた……」
 学校という公共の場を失った子供たちは、家で動画を見て教育を受ける。

「勉強以外にも、友達を作ったり部活をしたり……学校で学ぶべきコトは、たくさんあるのに……」
 地下鉄車両の窓の外では、トンネルのライトの光が後ろに向かって流れ去る。

「まるで、タイムマシンの時間の流れのようだ……」
 その流れを止める力だど、今のボクには無かった。

 窓の外は、正方形の巨大広告へと変り、ボクは車両を降りる。
「さすがに朝だと、凄まじい人ゴミだな」
ホームも階段もエスカレーターも人で溢れ、自動改札が人間を一生懸命に振り分けていた。

 ボクは、瀬堂 癒魅のマンションに向かって歩きだす。
かつて彼女と待ち合わせた、カフェの前を通り過ぎようとしたとき……。

「キミ……ちょっといいかしら?」
テラス席に座った、女性が声をかけて来た。