ラノベブログDA王

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萌え茶道部の文貴くん。第五章・第ニ話

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天岩戸(アメノイワト)の物語

「聞いて欲しいことがあるんだ 楓卯歌ちゃん、穂埜歌ちゃん」

 名古屋でも、住宅街はありきたりの道が続き、デザインされた集合住宅やマンションの建ち並ぶ合間を歩くボクと、双子姉妹。

「橋元は、入部届けを悪用する気は無かったんだ。でも、醍醐寺副会長が敢てそうして欲しいと頼んだ。その理由は……キミ達が察した通りだよ」
 そっくりな双子の二人だが、姉の楓卯歌はモミ上げが内ハネで、妹の穂埜歌が外ハネだった。

「姉さま……どうして、ご自分の為では無く、いつ時もわたし達の為に……」
「姉さまだって、今も醍醐寺の家で、苦しい思いをしてるのに!」
 憤る、二人の美少女姉妹。

「姉さまをお助けすることは……」「出来ないでしょうか?」
 渡辺は『醍醐寺 沙耶歌』と、『浅間 楓卯歌と穂埜歌』との強い絆を感じた。

「……助けられるなんて、軽々しく言うことは出来ない……ゴメン……」
 橋元であれば、軽く『助ける』と言ってのけるんだろうな……と、渡辺は思った。

「……いえ、渡辺先パイが謝らないで下さい!」
「姉さまの力になれないのは、わたし達なんですから」
 三人で落ち込んでいると、絹絵が道路の向こうで手を振っているのが目に入る。

「今、そっちに行くっス。でも車には、気を付けるっス!?」
 絹絵はとても慎重になりながら、横断歩道を渡って来た。

「……絹絵、お洒落!」「超可愛い!」
 絹絵はピンクのスカートに、焦げ茶色のシャツ、シルバーの短めのGジャン姿だった。
「そ、そうっスか?」双子に褒められた絹絵は、赤くなって照れていた。

「お二人の私服姿も初めて見たッス! とっても可愛いッスよね~♪ ご主人さま?」
「あ……ああ」渡辺は『その日の朝の出来事』を思い出しながら、短く答える。

 実際、彼女たちの着ている服は全て、高価なブランド物ばかりである。
だが、服の本来の持ち主は、彼女たちの義姉である『醍醐寺 沙耶歌』だった。

 今朝になって、双子を心配した義姉から『四つのトランク』が届く。
中には『簡易マンションの契約書』と共に、高価そうなブランド物の服が大量に押し込まれていた。

 対して、双子姉妹が持っていた自分の服はと言えば、制服を除けば小さなリュックに収まる程度の量であり、二人はそれが自分たちの全ての持ち物だと言った。
「七年以上も住んだ家で……持ち物が、たったこれだけ!?」

 渡辺は橋元を通じて、彼女たちが小学三年生の時に『醍醐寺』にやって来たことを知る。
「はい。姉さまは何度も……」「ご自分の服を、わたし達にくれようとしたのですが……」
「許されなかった……と?」つまり『醍醐寺』とは、そう言う家なのだ。

(これから対峙しようとしているのは、ボクたちよりも遥かに『大人で狡猾な相手』なんだ)
 渡辺の表情に、厳しさが増す。

「どうしたの?」「渡辺先パイ、何か心配ごと?」
 すると浅間 楓卯歌と浅間 穂埜歌が、覗き込む様に声をかけて来た。
「……いや、大したことじゃ無いよ」幼い頃に交通事故で両親を亡くした、双子の女子高生たち。

「それより今日は、おもいっきり楽しもう!」
 彼女たちの経験を思えば、今の自分の状況など、取るに足らない出来事なのかも知れない……と、渡辺は思った。

 その後、四人は大須へと向かい、賑やかな街を散策する。
かつて絹絵と待ち合わせた、大きな招き猫のある広場に着くと、そこには簡易ステージが設けられ、メイド服を着たダンサーたちが踊っていた。

「……ふぅ、何とか間に合ったみたいだ」
 渡辺は肩から提げていたカメラバックから、デジタルハイビジョンのビデオカメラを取り出す。
「ご主人さま? メイドさんたちを撮るんスか?」「違うよ、次だよ次!」
ダンスを終えたメイド達は舞台袖に掃けて行き、新たなダンサーグループがステージに登場した。

「おお、今度は巫女姿のダンサーグループ……ってあれ? ……天原先パイっす!?」 
 赤いレオタードの上に、羽衣の如く透き通ったロングジャケットを着て踊る少女たち。

 舞台に上がったのは、『天原 礼於奈』を始めとした『巫女・美娘ダンシング部』メンバーの五人の少女たちだった。

「……凄い! 和風のよさこい的な鳴子踊りを、ストリートダンスに取り入れてる!?」
「カッコいい! 笛や太鼓の音を、ダンスミュージック風にアレンジしてるよ!?」
 双子が驚くのもムリは無く、周りの観衆もステージに釘付けとなって盛り上がる。

「けっこう時間はかかったけど、サンプリングも上手く行ったみたいだ」
「……え? この曲、ご主人さまが作ったッスか?」

「作曲は天原さんだよ。打ち込みも『電気ウナギ発電・エコの会』の鯰尾 阿曇さん達に手伝ってもらったんだ」渡辺は質問に答えながらもカメラを周し続ける。

「ヌフフフフ……上出来じゃないか? 曲もダンスも、日本神話の天岩戸(アメノイワト)の物語をアレンジしてるのじゃ。天原のヤツもやりおるわ」
 四人が振り向くと、牛乳ビンの底のようなメガネにダボダボ の白衣を着た少女が立っていた。

「あ、ウワサをすれば阿曇さんッス!」白衣の少女は軽く手を上げる。
「渡辺よ……動画素材なら心配せんでいいぞ。我が『電気ウナギ発電・エコの会』の四人の娘たちが設置したカメラやスマホが、あちこちで回っておるでの」「うん、ありがとう」

「あ、ステージ終ったみたいっス!」ステージは、華々しい拍手喝采で幕を閉じる。
「なんだか、凄かったね、ホノ!?」「天原先パイたち……凄過ぎだよ、フウ!!」
 双子は、今までに無く活き活きとした表情をしていた。

 

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