助けられた少女たち
穴から落下した巨岩は、岩の外壁にぶつかると砕けて大きく三つに分かれる。
轟音が連続して響き渡り、穴から飛び出てくる欠片もあったが、大半はフォボスの小さな重力に引き寄せられ、ゆっくりと落下していった。
「上手く行ったな、セノン。避難小屋の床も、抜け落ちずに済んだみたいだ」
「は、早く行って見ようよ、おじいちゃん。みんなが無事なのか、確かめないと!!」
セノンは、爆発の衝撃が完全には収まってないにも関わらず、急いで避難小屋へと向う。
「余程、大切な友だちなんだろうな。ボクには、そんな友だちは……」
あまり思い出したくない『千年前の孤独な過去』を振り払いながら、ボクも後を追った。
作業小屋を半壊させていた巨岩が取り除かれ、天井にポッカリと穴が開いている。
ボクはセノンの前に出て、オレンジ色の非常灯が灯った室内の様子を伺う。
「うえェ~ん!! ホントに……ホントに有難うございますゥ~!?」
「生きてるゥ!? わたし達みんな……生きてる、生きてるよォ~!!」
「もうダメかと思った~! わあああぁぁぁ~ん!」
中に入ると、恐らくクーヴァルヴァリアの取り巻きであろう大勢の少女たちが、ヘルメットのバイザーの中を涙やら鼻水やらで満たしながら、ボクに抱きついて来た。
「宇宙斗様……助けていただき、本当に感謝いたします」
『クヴァヴァ様』だと思われる美しい顔立ちの少女が、その後ろで優雅に頭を下げている。
彼女は長髪なのか、特徴的なウェーブのかかった髪を頭の前後に垂らしており、髪を保護する光のフィルムは蛍光ピンクに輝く。
ヘルメットも黄金色であり、ボクはライオンのたてがみを連想した。
純白とピンクをベースに、金色のエングレービングの施された『豪華過ぎる宇宙服』は、体にピタリとフィットし、彼女の豊満な胸や、大きなお尻のラインを強調する
「なんか、クヴァヴァさまの宇宙服だけ、特別仕様に思えるんだが?」
「なに、見とれちゃってるんですか、おじいちゃん!」傍らで、セノンが睨んでいる。
「み、見とれてないよ。それより、他のみんなも無事なのか?」
咄嗟に話題を変えると、セノンがボーイッシュな少女に抱きついた。
「マケマケ~!? 無事でよかったのですゥ~!!」「セノン、サンキューな!!」
恐らく『真央』と思われる少女は、セノンと同じデザインの宇宙服を身に着けていたが、メインカラーはピンクではなくサックスブルーだった。
セノンと並んでみると、頭半分くらい大きく、筋肉質のしなやかな身体付きに見える。
「助けてくれて有難いんだが、セノン……ヴァルナとハウメアが……!!」
真央の視線の先には、二人の少女が壁に固定され肩を寄せ合っていた。
「おじいちゃん、ど、どうしよう!? 宇宙服も破れて……血がいっぱい出てる!?」
セノンに言われて二人の容態を確認すると、ヴァルナは左わき腹に、ハウメアは右の大腿部にかなりの重症を負っていて、息も荒かった。
「マズイな……早く病院で手当てしないと。でも、応急手当てはしてあるな?」
「それは、わたくしが……」 手当ては、クーヴァルヴァリアが行ってくれていた。
「さっきはゴメン! アタシ、あんたに酷いこと言って……」真央は頭を深々と下げて謝罪する。
「別に、気になどしておりませんわ」クヴァヴァ様も、謝罪を受け入れた。
「それより、お二人を運び出しましょう。この避難小屋も、危険ですわ」
ご令嬢の指示通り、ヴァルナとハウメアを避難小屋に設置してあった、簡易担架に載せる。
ボクたちは全員揃って、穴の開いた天井から外へと脱出した。
爆発の起きていない、安全そうな場所に二人を降ろす。
「……アンタが『宇宙斗』かい?」ボーイッシュな少女が、右手を差し出してきた。
「アタシは『真央=ケイトハルト・マッケンジー』……真央って呼んでくれ。今回は助かったよ。マジで死ぬかと思ったぜ!」
(真央=ケイトハルト・マッケンジーだから、『マケマケ』なのかあ? セノンのおかしなあだ名にも、一応は意味があったんだな)
「うん……そうだケド」ボクは、一人の少女から突然『感謝の意』とやらを示され、少し照れる。
「ふぁ~外だあぁ! もう一度外の空気が吸えるなんて、宇宙斗……アンタのお陰だよ!」
真央は、握手に応じたボクの手を、ブンブンと振り回して喜んでいた。
「いや……ここもまだ危険だ。上に街があるんだろ? そ、そこまで上がる手段は、無いの?」
女の子からお礼を言われる経験など皆無のボクは、咄嗟に話題を変えて誤魔化す。
「確かにいつまた、爆発が起きるかもしれませんモノね。流石は、宇宙斗様」
クーヴァルヴァリアの豊満な胸が、ボクの腕を抱え込む。
「……はいッ! ……いえ……そんな」ボクは頭を掻こうとしたが、ヘルメットに阻まれる。
「なに、ニヤついてるんですか、おじいちゃん!!」セノンが何故だか、怒っていた。
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