ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

アイドル旋姫伝承ジュリア・第一幕・第一話

あるアイドルの想い

 それなりの大都会にあるファミレス……三人の少女が会話を交差させている。

「また、アイドルオーディション落選か。これで何度目だよ、ジュリア?」
 オレンジ色の巻き髪ツインテールに、小麦色の肌の少女が言った。

「……オヨヨ? これで二十回目かなあ、アイちゃん」
 向かいに座った少女は、テーブルに置かれたメロンソーダの泡を眺めている。
彼女は軽くウェーブのかかったココア色のミディアムヘアーに、ダークブラウン色の瞳をしていた。

「正解。だから今日は記念にアタシが奢ってやるよ、ジュリア」
 アイは、若草色のブレザーに深緑と黒のチェック柄のミニスカートを穿き、ラフに着た白シャツからは日焼けしたヘソが顔を覗かせていた。

「でもでも、今回はまあまあ上手く歌えたと思うんだ。ダンスもそんなに間違わなかったし」
「つってもなあ……」しなやかな脚を組み、口にくわえたストローを上下させるアイ。

「大型アイドルユニットのオーディションってなら、そこそこの採用枠があったんだろ?」
「オヨ……」「それで一時審査にも通らないってさ」「そそ、それは……その」
 ジュリアは焦って目を泳がせる。

 水色のセーラー服に、瑠璃色と白のチェック柄のスカートを穿いた彼女は、アイとは対照的に平凡な少女の印象だった。

「いい加減、諦めたら?」アイの隣に座っていた少女が、ピシャリと言った。
 彼女は傍らに置かれた参考書に、視線を落としながら会話を続ける。

「莉亜にはきっと、アイドルの才能が無かったのよ。努力は大切だけれど、方向性を間違えれば、それこそ無駄になるわ」
 少女は、夜空の様なスミレ色のブレザーに、黒にクリームイエローのチェック柄スカートを穿いている。カチューシャで纏められた艶やかな黒髪は、背中まで伸びていた。

「うん……でも、まだまだわたしの努力が足りなかったんだよ、セイラちゃん」
 ジュリアの言葉には、僅かに緊張が混じっていた。
「次はもっと、歌もダンスも練習しなきゃ……」「あのねえ、莉亜」

 セイラは淵の薄いメガネを中指でクイッと上げ、ジュリアを糾弾し始める。
「次はって、一体いつまで続けるつもりかしら?」「それは……アイドルになれるまでだよ」
「わたし達、もうすぐ高校生よ。今は小学生からアイドルをやってる子だっているわ」

 セイラの前に開かれた参考書は、有名進学校の入試問題集だった。
「で、でもでも、高校から始める子だっているよ」
「才能があればね。莉亜は小学生から始めて、未だに一回もオーディションに合格してないのよ」

「オ、オヨ」ジュリアの口から反論の言葉は出てこなかった。
「まあまあ二人とも、そんな熱くなるなって」

 アイはまあ喰えや、とばかりに山盛りポテトフライをテーブルの中央に移動させる。
「メテオも言い過ぎだぞ。お前の突っ込みは、昔から的を射過ぎていて洒落にならん」

 セイラはおもむろに、ブラックコーヒーを口に運びながら言った。
「いい加減、そのメテオって呼び方、止めてくれるかしら? わたしは、『鶴羽 星流』よ」

「流れ星って、英語だとメテオじゃん……って、このやり取りも何度目だ? ガキの頃を思い出すよな」
「そうね。アイなんて、『高妬 哀』って本名を、無理やりラブとか読ませようとしてたわね」
「だって哀なんかより、ラブのが断然可愛いじゃん」「愛ならともかく、哀でラブは無理有りすぎよ」

 セイラはテーブルに開かれたノートに、シャープペンシルで二つの『アイ』の文字を書きつづる。
「でもジュリアは、未だにジュリアだよな。本名は、『寿 莉亜(ことぶき りあ)』なのに」
「オヨ……だね」ジュリアは俯きながら、メロンソーダを啜った。

「間違っても人前でメテオなんて呼ばないでよ。アイドルごっこの頃の呼び名なんて、いい加減恥ずかしいわ」釘を刺すセイラ。
「昔は、喜んで名乗ってたクセに」ニヤニヤと日に焼けた口元を緩めて、ポテトを頬張るアイ。

「う、うるさい! 子供だったのよ、意味も解らなかったし。大体、メテオなんてアイドルの名前として、全然可愛くないじゃない……ああ、黒歴史だわ!?」
 アイはセイラの必死の訴えを、ポテトを頬張りながら聞き流す。

「……ごっこなんかじゃない」呟くような声がした。

「黒歴史って何! アイドルは、三人でなろうって誓った夢でしょ!!!」
 声を荒げたのは、ジュリアだった。

「お、おう。悪い」 普段は大人しい親友を怒らせてしまい、アイは素直に謝る。

「まったく、いつまで小学生の頃の思い出を、引きずるつもり?」
 けれどもセイラは、その流れに従う気は無かった。