ラノベブログDA王

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萌え茶道部の文貴くん。第四章・第六話

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美味しい抹茶

 次の日、とつぜん橋元の口から、『茶道部が五人になる事』が発表された。

「お二人が入部って、ど~ゆコトっすか!?」橋元を、精一杯の厳しい眼差しで睨む絹絵。
「どうって、言葉通りの意味だが?」畳の間で漫画を読んでいた橋元が、小さな声でつぶやく。
「おい、橋元! お前まさか、二人が間違って書いた入部届を使ったのか?」

「正解! オレを怒らせた罰だ。生徒会長の権限を侮るからこうなる!!」
「……正解って、いくら何でもこのやり方は『反則』だろう?」
「やり過ぎッスよ!? 橋元先パイ、見損なったッス!!」

「おい、どこ行くんだ、シルキー?」部室を出て行こうとする絹絵を、橋元が呼び止める。
「元はと言えばアチシの勘違いが原因で、入部届けを書いたッス。お二人には、手違いであったと言って詫びて来るッス!!」

「止めとけって、シルキー。今頃アイツら、醍醐寺の家を追い出されているハズだぜ?」
「二人は、醍醐寺の家に住んでいるのか?」渡辺が、橋元の言葉尻を指摘する。
「……らしいな。昨日、沙耶歌に聞いたのさ。居候だってよ」

 橋元は、少しだけ本当の事を話した。
「……え? それじゃお二人とも、茶道をやっているんスか?」
「うん。昨日の二人を見ていてわかったよ、絹絵ちゃん。あの優雅な所作は『醍醐寺』だ」

「でも……どうして茶道部に入ったくらいで、家を追い出されなきゃあいけないッスか!?」
「あそこは、そ~ゆ~家なの。『萌え茶』とか言ってるワケのわからん茶道部に入ったとなれば、家の恥とばかりに即破門なのさ。ま、昔はそ~でも無かったんだがな」

「ま、まだ破門されたと、決まったワケじゃあ無いッス!!」
 絹絵は、大急ぎで部室を飛び出して行った。

 部室には渡辺と橋元だけが残され、長い沈黙の時間が流れる。
「……なあ、渡辺。お前は、オレがこんな作戦に出たってのに、エラく冷静だな?」
 沈黙に耐えられなくなった橋元が、口を開いた。

 渡辺はスクっと立ち上がると、茶筅を手に抹茶を点て始めた。
「そ~ゆ~お前は、何時になく冷静じゃあないな? マンガ、逆さだぞ……」
橋元は、慌ててマンガの向きを変える。

「一体何があった? 話せ、橋元」「実はもう、沙耶歌にも話が通してあるんだ……」
 渡辺が、熱く点てられた抹茶茶碗を畳の間に置くと、橋元はカツ丼でも出された犯人のように、副会長との経緯を話し始めた。

(無論、彼女を抱きかかえた事などは省き、ある程度の推察も交えながらである。)

 渡辺との間で情報が共有された頃、恐ろしい形相の双子姉妹が部室に乱入した。
彼女たちの怒りは頂点まで達し、鬼のような眼差しで橋元を凝視する。
「へ、やっぱそう来るか?」橋元はどんな一撃が来ても構わないように、絶対防御の体制を取った。

「うえええぇぇ~~ん!?」「わあああぁぁぁ~~ん!?」
だが少女たちは、渡辺や橋元の予想とは異なる反応を示す。

「うお……ど、どうしたんだ、お前ら!? 何、子供みたいに泣いてんだよ!?」
 けれども『浅間 楓卯歌』と『浅間 穂埜歌』は、橋元の挑発にも乗らず泣きジャクった。

「お二人とも、アチシの勘違いで大変なコトになってしまって、ホント申し訳ないッス!」
 その後、入れ違いになっていた絹絵が駆けつけ、二人をなだめ始める。


「昨日は、絹絵ちゃんが子供っぽく見えたけど、今日はお姉さんに見える……」
 渡辺が呟いたように双子姉妹は、髪の毛がショートヘアなのと、幾分小柄で胸などがスレンダーなのを除けば、従姉妹である『醍醐寺 沙耶歌』のような優雅さや、落ち着きを備えていた。

 それが今日は、幼子のように嗚咽を漏らしながら、目を真っ赤にして泣き伏している。
橋元の話を聞いているとはいえ渡辺も、二人に対して流石に申し訳なく思った。
「……今回のコトは、本当にゴメン! 橋元にはキツ~ク言って置くから!!」

 そのとき何故か、絹絵が二人に『ご主人さまに甘えてもいいよ……』という仕種をする。
「……え?」「ああああぁぁぁぁぁ~~ん!!」「ふええぇぇぇぇ~~~ん!!」
(えええッーーーー!)『浅間 楓卯歌』と『浅間 穂埜歌』は、渡辺の胸で泣きじゃくった。

 十分ほどが経過すると、双子はようやく落ち着きを取り戻したが、渡辺の学ランは胸の辺りがベトベトしている。
仕方なく上着を脱いだ渡辺は、抹茶を点てて二人の前に置いた。

「……ココアでも出すべきところなんだろうけど、ウチはこれでも茶道部だから……抹茶でゴメンね」
 渡辺が抹茶を勧めると、双子は自然に身についている美しい所作で、それを飲んだ。

「……美味しい……どうして?」「……なんでアナタの点てる抹茶は、美味しいの?」
 双子は、赤く腫らした目はしていたが、表情は穏やかになる。

「どうしてって……抹茶って本来、美味しい物だろ?」
「ウソ……今まで抹茶なんて……」「美味しいと思ったコト無いもん……」
 楓卯歌と穂埜歌は、顔を見合わせた。

「それはたぶん、真心がこもってるからッスよ」
 絹絵は、ニコッと微笑んだ。

 

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