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萌え茶道部の文貴くん。第四章・第四話

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双子の過去

「あの~? 質問なんスけど『醍醐寺』ってのは、有名な家柄なんスか?」
 一人、話に付いて行けてない絹絵が口を挟んだ。

「絹絵ちゃんは転校生だから知らないだろうけど、『醍醐寺』はここらじゃ有名な『茶道の家元』でね。『醍醐寺 劉庵』は元は起業家で、引退した今でも政界や財界に太いパイプを持つ一流の茶人さ。かつてはこの学校の理事長だった人だよ」

 説明を終えると、話の腰を折られた少女が二人、不機嫌そうに渡辺を睨んでいる。
「ご……ごめん、話が逸れたかな?」「と・に・か・く!」
『楓卯歌』と『穂埜歌』は、『コホン』と一息付くと、橋元の糾弾の続きを始めた。

「このいい加減でチャランポランな男が、義姉さまの許嫁ってだけでも腹立たしいのに……」
「最低でダメダメな男が、その義姉さまを裏切って泣かすなど、言語道断!」
 双子姉妹の橋元に対する形容詞は、どれも辛らつだった。

「言わせておけばいい気になりやがって! オレだって何も、好き好んで沙耶歌と許嫁になったんじゃねえ。親同士が大人の都合で勝手に決めたコトだ!」 
 『いい加減』で『チャランポラン』で、『最低』で『ダメダメ』と言われた男が反撃を開始する。

「沙耶歌を裏切るも何も、オレはアイツの味方だなんて言った覚えは無いね!」
「……姉さまの気も知らないで、このダメダメ男!」「ホント最低ッ………薄情男!」
 橋元の台詞を皮切りに、激しい言葉の応酬が始まった。

 付け加えるなら、弱冠の一方的暴力も混じっている。
「もういい! この男にいくら言っても無駄!」
「姉さまとの関係は喋らないで! 喋ったら、タダじゃ置かないから!」

 二人の少女は、冷たい目線だけ残して部室を出ていく。
「……な、何なんだよ……全く!」
橋元も、自分のカバンを足で蹴り上げてキャッチすると、ドアを乱雑に開けて部室を去った。

「……ありゃあ。橋元先パイまで、怒って出て行っちゃいましたねえ」
「『生徒会長』も『名家のご令嬢』も、『名家の血筋』も、さぞかし大変なんだろうよ」
 渡辺は、開け放たれたままの茶道部のおんぼろドアを見て、そう思った。

 しかしこの時、茶道部の部室から『二枚の紙切れ』が無くなっていた。
その事実を、絹絵も双子姉妹も、部長である渡辺さえ気付いてはいなかった。

 その紙切れは現在、ある男のポケットに押し込まれている。
男は、一応は封鎖されているコトになっている、丘の下の校舎屋上へと向った。
『立ち入り禁止』の看板とロープを跨いで、屋上へと続く扉の鍵を開け外に出る。

 今出てきたばかりの、給水塔の乗っかった建物の横の、梯子を昇った。
「やっぱ、ここにいたのかぁ……沙耶歌?」
男の視線の先には、美しく長い髪を夕日になびかせる少女の姿があった。

 彼女は体育座りをしていて、オレンジ色の光を全身に浴びている。
「どうしたの、蒔雄……いえ、生徒会長と呼んだ方がいいのかしら?」
「……フッ、蒔雄でいいよ。それより驚け! 今日晴れて、茶道部が五人になったぜ!」

 橋元はポケットから二枚の紙切れを取り出した。
それは、『浅間 楓卯歌』と、『浅間 穂埜歌』と記入された、茶道部の入部届けだった。
「そ、それは! ……あのコたち……まさかッ!?」

 慌てる醍醐寺 沙耶歌の反応を見て、橋元は悪戯っぽく微笑む。
「ウッソぴょ~~ん! や~い、引っかかったぁ~♪」
 橋元は、ワケの分かっていない顔をしている副会長に、入部届けが書かれた経緯を説明した。

「あんまりにも腹が立ったんで、ホントに入部させてやろうかとも思ったんだが……」
「……ウフフ。それは災難でしたわね、生徒会長」
「しっかしよぉ、お前に従姉妹がいたなんて初耳だぜ? しかも同じ学校の生徒会によお?」

 副会長は、元の沈んだ表情に戻った。
「あのコ達は、お父様の妹の子なのです。でも叔母様は、駆け落ち同然に『醍醐寺』の家を出られ、その後……あのコたちが小学生の時に、お相手の方共々、 交通事故で……」

 橋元は、思いがけず双子少女の『暗い過去』を聞かされ、空を見上げため息を付いた。
「一族の恥になる、アイツの過去は『隠ぺい』か? 『醍醐寺』のやりそうなこったぜ!」

「……あのコたちは、ご両親が亡くなった後、施設や親戚の家をたらい回しにされた挙げ句、ウチ(醍醐寺)に来たのよ。誰も味方のいない『醍醐寺』で、随分と肩身の狭い思いをしたでしょうに……」

 生徒会長は、副会長の隣に座った。
「お前を除いては……だろ? アイツ等、お前のコトは随分と慕ってるみたいだったしよぉ?」
 醍醐寺 沙耶歌は首を横に振った。

「助けられたのは、むしろわたしの方だわ。金や権力に汚れ、氷のように冷たい『醍醐寺の家』にあって、あのコ達と過ごす時間は唯一の心の救いでした……」
 顔を膝に埋め、声を震わす許嫁の少女。

(それは、アイツ等にとってもだろうな。だから、あんなに必死になってオレを……)
 橋元はまた一つ、ため息をついた。

 

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