ラノベブログDA王

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萌え茶道部の文貴くん。第四章・第一話

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未知との遭遇部

 茶道部は最近、オワコン棟住人の『お悩み相談室』にもなっていた。

 最初の会議以降、渡辺の物事を理解し解決する能力と、『抹茶の味』が評判となり、橋元の居ない時期を見計らっては、(抹茶を飲む目的も兼ねて)悩み事相談をしにやって来ていた。

「さっすが、ご主人サマッス~! 誰からも信頼され、頼りにされるお人ッス! さあさ、何でもご主人サマにお任せあれッス~♪」
 最初、渡辺は断ろうとしたのだが、絹絵のこの一言でやる羽目になってしまった。

 現在、茶道部の長机には、宇宙人の触覚カチューシャを付けた少女が一人座っており、その前には点てたばかりの抹茶が置いてあった。
「……え~っと、未知との遭遇部の部長さんの、愛澤 柚葉先パイッスね?」

「そうよ……」絹絵の問いに、柚葉の頭のカチューシャが揺れる。
 彼女がとても話し辛そうにしているので、渡辺の側から誘いをかけてみた。
「今日は、何の相談があるのかな? 良かったらだけど……聞かせてくれる?」

「あの……さ。実は、部活の存続の件……でね」彼女の口ぶりから渡辺は、少し嫌な予感がした。
「……その、すっごく言いにくいんだケド、あたし達の部活……『未知との遭遇部』はこの際、解散した方がいいんじゃないかな……って、思ってんだ」

「ええ、どうしてッスか!?」絹絵が、机に身を乗り出して詰め寄る。
「こないだの会議じゃ、先パイも辞めるの嫌だって、言ってたじゃないッスか!?」
「そ、そうなんだケド……」「理由を聞いてもいいかな……愛澤さん」

 絹絵を制しながら渡辺は、言葉を続けさせると、柚葉は意を決したのか小さく頷いた。
「……あたしら、未知との遭遇部は去年出来たばかりの部活で、そもそも始めたのがあたしなんだよ。その頃までのアタシってさ……ホラ、宇宙人だの怪奇現象だのの本や、動画なんかを見て、それにハマッて、勢い余って部活まで立ち上げようとしちゃったワケ……」

 彼女はそこまで言うと、渡辺の気遣いで温めに点ててある抹茶を、一気に飲み干した。
「……そう言えば会議の時、橋元の奴が愛澤さんに、語尾に『ポヨン』を付けるとか、どうとか言ってたような……?」

「イ~ヤ~、止めて~!! わ、若気の至りってあるじゃない!? と、当時は、ホントに宇宙人がいるって思えてたの! お願いだから忘れて下さい!!」
 愛澤 柚葉は顔を真っ赤にし、宇宙人触覚の付いた頭からは湯気が立ち昇っていた。

「……つまり去年までは、『そうだポヨン♪』っとか、言ってたッスか?」
「プッ!」渡辺は一瞬、失笑してしまった。
「……き、絹絵ちゃ……ん、そう言うコトは、ハッキリ言っちゃダメ……」

 渡辺は何とか真顔を作て、誤魔化そうと試みたものの上手くはいかなかった。
「う、うっさい! フンだ……笑いたければ笑うがいいわ。アンタだって、抹茶茶碗にフィギュアとか飾っちゃって。今に気づくわよ! 自分が中二病だって、事実に!!!」

「ゴ、ゴメン。それで、他の部員も同じ考えなのかな?」
「……ン~ン。違うと思う……」柚葉は、急に表情を曇らせる。
「これは……あたしが勝手に……」宇宙人カチューシャが、寂しそうに横に揺れた。

「えと……ね。結局、去年は誰も部員が集まらなくて、あたし自身も段々、宇宙人とか超常現象に興味が薄れてきちゃって……部活を立ち上げる活動も、終らせようって思ってたの。そしたら、今年になって入部希望者が現れて……しかも、四人もよ!」

「今年も、部活の勧誘は続けてたんスか?」絹絵の問いに、再びカチューシャが横に揺れた。
「……止めるつもりだったから、ビラの一枚も撒いてないよ。でもあの子たち、去年の学際前に撒いたビラに感銘を受けちゃって。結局、学際は火事で中止になったし、当時、まだ中学生だったあの子たちも、まさか、あたし一人だけの部活だとは思ってなかったみたいで……」

 渡辺は、柚葉たちの問題の一因が、去年の茶道部の火事にある事に、後ろめたさを感じた。
「……でも、せっかく入部してくれた手前引くに引けなくて……あの子たちの前じゃ、未だに『ポヨンポヨン』言ってるし、宇宙人とのコンタクトの儀式も続けてるってワケ……」

 愛澤 柚葉はうつむき、抹茶の跡が薄っすらと残った有田焼きの茶碗を、手の中で回していた。
「色々と、厳しいじょ~きょ~ッスね……」絹絵は素直に同情する。
「愛澤さんも……オレと似てる……ね」渡辺は『写真立て』を見ながら言った。

「お互い中二病ってコト?」柚葉から、的外れな答えが返って来る。
「そうじゃなくて……オレも、絹絵ちゃんって後輩に、急き立てられて、部活を続ける気になったって言うか……」 「ご、ご主人サマ……? もしかして、ご迷惑だったッスか!?」

 泣きそうな顔をする絹絵を見て、渡辺は優しく微笑んだ。
「いや、むしろその逆かな? オレって奴は、それくらいされないと中々動かないんだ」
「ご……ご主人サマ!」絹絵の顔に、笑顔が広がった。

「愛澤さんは、一年生の後輩が入って来て、迷惑だった?」
「め……迷惑だなんてッ!?」宇宙人カチューシャが、激しく横に揺れる。
「あの子たちが入ってくれて、あたしメチャクチャ嬉しかった……!!」

 愛澤 柚葉の口から、堰を切ったように『感情』が飛び出して来る。
「だって、それまでずっと一人で活動を続けても、誰もあたしのやってるコトに見向きもしてくれなかった。でも、あの子たちが入部してくれて、みんなで星を観察したり、おかしな儀式をしたり……とっても楽しかった!」

「愛澤さんは、そんな部活を終らせたいの?」渡辺は問いかけた。
 それは、『自分自身への問い』であったのかも知れない。

 

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