ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第5章・11話

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白紫色の髪の剣士

「……因幡 舞人。その剣について、聞かせてもらおうか……」

 急に殺気を感じた少年が振り返ると、氷のような眼差しをした剣士が待ち構えていた。
「雪影さん……見ての通りです。この剣には、高位の魔族を人間に変える力があるんですよ」
少年が言い終わると同時に、白紫色の髪の剣士は二本の剣を抜く。

「そこをどけ、少年よ。その者たちを……斬る!」
 剣士は、『雪のように真っ白な刀身の剣』と、『暗闇のような漆黒の剣』を構えた。

「ほう? ソレは確か、伝説の東国に伝わる、『カタナ』とか呼ばれる剣じゃのォ?」
 ルーシェリアが臆すること無く尋ねると、雪影はそれを敵意と捉えた。
「なる程……流石は何千年もの、永き寿命を持つと云われる魔王だ。言い残すことは、それだけか?」

「……キサマこそ、人間風情が妾に勝てるとでも思っているのかえ?」
「ま……待って下さい、雪影さん! ルーシェリアはもう、ただの普通の女の子なんです!」
 舞人は、『白紫色の髪の剣士』と、『漆黒の髪の少女』の間に割って入る。

「ルーシェリアも剣を収めろ! 今のお前に勝てる相手じゃない!」
 ルーシェリアの邪眼の並んだ剣を、制する蒼い髪の少年。
だが雪影は、再び凍った視線を舞人に向けた。

「『どけ』と、言ったハズだ。少年よ……その者たちを生かしては置けない!」
 雪影は、二振りの刀に凄まじいまでの殺気を込める。
「どきません! お願いです……止めて下さい!」少年は尚も立ちはだかった。

「こいつらはもう、魔王じゃない! 殺す必要なんて、無いんです!」
「再び、魔王の力を取り戻す可能性は、十分にある」「だ、大丈夫ですよ?」
「自分の剣の能力すら、把握しておらんのに、どうしてそう言える?」「そ……それは」

「それに……だ。人間の普通の少女が、邪剣を操り、魔物と対峙できるとでも言うのか?」
 人生経験の違いから、舌戦では明らかに舞人が不利だった。
「……で、でもボクは、コイツらを守りたい。守りたいんだ!!」

「邪魔立てするとあれば、少年とて容赦はせん!!」
 雪影は、猛スピードで少年に斬りかかった。
「『白夜丸』、『黒楼丸』よ! 己が敵を切り裂け!」
 だが雪影の狙いは、舞人では無く背後の少女たちだった。

「解らず屋あああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
 少年は背中に携えた漆黒のガラクタ剣を抜き、剣戟を全て受け止める。
「やはり、多少は出来るな……だがな……!!」

「ぐわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーッ!」
 少年は、無数の黒い刃に切り刻まれ、『漆黒の傷』を体のあちこちに作って倒れた。
「ご主人サマぁぁーーー!」ルーシェリアは舞人の元へと駆け寄る。

「その傷を、止血することは不可能だ。我が『黒楼丸』によって負った傷は、たとえどんな回復魔法であろうと、癒すことなど出来ぬ」
「おのれ……よくもご主人サマを!!」怒りに満ちる紅の瞳に、少年の背中が映った。

「ダ……ダメだ、ルーシェリア……! この人と戦っちゃいけない!」
「どうしてじゃ、ご主人サマ……? コイツは妾たちを、殺そうとしておるのじゃぞ!」
 ルーシェリアの背後には、ネリーニャとルビーニャの姉妹や、八人の元富の魔王の少女がいた。

「キサマら魔族の王によって、何人の人間が死んだと思っておる? 力を失っているのであれば、むしろ好都合だ。その隙に殺すのが、当然であろう?」
 舞人たちとの間合いを詰め、歩み寄る白紫色の髪の剣士。

「……そうかも知れない。でも今は、人間の普通の女の子なんだ!」
 剣士は、血の通わない機械のように、再び『構え』に入る。
「……二度は言わぬ……そこをどけ!!」

「嫌だ!! ボクは、ルーシェリアのために……彼女たちの為に戦う!!!」
 少年は、血まみれの腕でガラクタ剣を握り締めた。
「魔王などの為に、命を懸けると申すか! 少年!!!」

「……違う! 可愛らしい、女の子たちの……為だぁぁッ!」
 少年は、最後の力を振り絞って剣士に向って行った。

「でいやああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
「ぬおおおおォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
 舞人の『ガラクタ剣』と、剣士の白と黒の二振りによる斬撃が、激しく交差して火花を散らす。

『マモン・アマイモン・マンモーン』の城が、爆風によって大きく揺れた。
土埃と共に、蓄えられた財宝が宙を舞い、辺りの視界が著しく悪くなる。

「ご主人サマ! 無事か? 返事をせい!」
 ルーフェリアはその中を走り回って、瓦礫の中から舞人を見つけ出した。

「……どうしてじゃ……こんな姿にまでなって……どうしてッ……!?」
 瀕死の少年の頭を膝に乗せ、血まみれの額を白く美しい手で拭う少女。
そんなルーシェリアの喉元に、冷たい刃が突き付けられた。

「ゆ……雪影……さん……止めて……下さい。彼女を……殺さないで……」
 血まみれの少年は尚も、ルーシェリアの前に出て戦おうとする。
「何故、そこまで魔族を守ろうとする? その者たちによって、多くの血が流されたのだぞ?」


「人間だって……魔族を大勢……殺してます……」
「……魔族によって、親兄弟を殺された遺族の前で、同じ台詞を言えるか? 少年よ……」
 剣士も、額から大量の出血をしているが、全く平然としたまま会話を続ける。

「ボクも……両親を魔族に……殺されました。もしかしたら、魔王だった頃の彼女が、命令を降したのかも知れない……。でも……彼女は今、『普通の人間の女の子』なんだ……!」
 白紫色の髪の剣士は、少年の瞳の奥を覗き込んだ。

「……まるで、理屈が通用せんところなど……そっくりだな……」
 そう言うと、剣士は少女の喉元から刀を引く。「だが、舞人よ……」「……はい……雪影さん……」
 雪影は血に染まった二振りの剣を、素早く振るって血を落とし鞘へと収める。

「……例えこのわたしが殺さずとも、魔族に肉親を殺された多くの者が、その少女たちを許しはしないだろう……。お前はその者たちにも、刃を向けられるのか……?」

 剣士はそれだけ言い残して、何処かへと去って行った。

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