ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第02章・02話

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遠すぎた未来

「このコの髪……よく見ると……色も黒じゃない。栗色で……それに少しクセ毛だ」
 色もだが、黒乃のクワトロテールは顔の横で結んでいたのに対し、少女のはもっと下の方から四つに分けてあった。

「顔も黒乃と比べると、子供っぽいって言うか……幼いって言うか?」
 『ミステリアス美少女』と呼ぶのが相応しい時澤 黒乃と違って、目の前の少女は顔も身体つきも全体的に丸みを帯びていて、『可愛らしい女の子』と呼ぶのが相応しかった。

「クワトロテールの髪留めも、ウサギ、クマ、ネコ、羊の形をしている。月や太陽なんかの『天体の髪留め』だった黒乃とは真逆の印象だな」
 凍り付けから解放され、ボクはやっと普段通りに喋れるようになって来た。

「やっぱ別人だ。どことなく雰囲気が似ている気もするケド、とくに目が違うな。黒乃はもっと……攻撃的で挑戦的な瞳をしていた」
 ボクは黒乃では無い事が判明した少女の顔に、しばらく見入ってしまっていた。

「でも……それじゃあ黒乃は? 『時澤 黒乃』はどこに居るんだ?」
 ボクは浮かんだ疑問を解決すべく、周囲を見回すと脚に違和感を感じた。
「床が一面金属だ。幾何学的な金属パターンが、三百六十度どの方向にも果てしなく続いている!」

 鉱山の底で、眠りに付いたときの固い岩盤の床は、いつの間にか金属へと姿を変えていた。
「どうやら眠っている間に、別の場所に運ばれちゃったんだな?」
改めて辺りを観察すると、カプセルとそこから伸びるケーブルは元のまま存在した。

「でも、電力供給は続けられていたみたいだ。このケーブルを辿って行けば……」
 多少は動くようになってきた脚で、金属の床の上を歩く。
灯りは、ボクの眠っていたカプセルが放つわずかな光だけで、暗がりの中ケーブルを辿る。

 ボクは直ぐに、『時澤 黒乃』が引き篭もっていたカプセルを発見した。

「……く、黒乃ッ!?」
 けれども……ケーブルを辿った先にあったカプセルは、巨大な岩に押し潰されていた。

「……嘘だろ? そんな……まさか!!?」
 暗闇に悪魔のように聳え立つ、巨大な岩の塊。
黒乃の眠っていたカプセルは激しくねじ曲がり、ガラス蓋は粉々に砕けている。

 とてつもない不安に襲われたボクは、脚を強引に前に押し出して、何度も転びながらも黒乃のカプセルへと辿り着く。

「黒乃……無事か!? 返事を……返事をしてくれ!! 返事を……」
 直ぐにボクは絶句した。
いや……『絶望した』の方が正しかった。

「……黒……乃。ああ……どうして……」
 砕けたカプセルの底には、風化した骨の欠片と、形すら無くなった真っ白な灰があった。

「なんでェッ!!?」
 そして……象徴的な四つのシンボルで束ねられた、長くて美しい黒髪が遺されていた。

「……嘘だ? こんなの……嘘だ!!?」
 ボクの目から生まれた雫が、次々に薄暗がりの宙に舞う。

「キミは……ボクと一緒だって……。ずっと一緒に、居てくれるってぇぇぇ……ッ!!!」
 ボクはカプセルに引き篭もっていた時、暗く冷たい意識の中で、『自分がカプセルに入った理由』を考えていた。

 脳の機能が完全に停止するまでの、短い間だったのかも知れないが、ボクは自分に問いかけた。
彼女の様に、科学の進歩を実際に自分の目で見てみたかったから?
科学技術の研究に、自分も足跡を残したいと思ったからなのか?

 それとも、二十一世紀の息詰まった世界が、とことん嫌になったのだろうか?
ボクの心は、全ての『理屈』を否定する。

「……うう……黒……乃……。どうして……? どうしてこんな事にィィ!!?」
 彼女の変り果てた亡骸を手に掴むと、それは直ぐに指の隙間からこぼれ出た。

「わああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
 『彼女』は、サラサラとした白いモヤとなって、深遠の闇へと舞い上がる。
四散する灰にボクは、彼女の笑顔を思い浮かべた。

「……黒乃……。ボクはキミを……好きでした……」
 結局それが……ボクがカプセルに入った、単純で明快な理由だった。

 ボクは『偉そうな理論』など、所詮は全て後付けでしか無い事を、生まれて始めて理解した。
「……ボクが……キミの代わりに……未来の進歩した科学をこの目で見てやる。せめて、この時代にキミが導いてくれた意義を……ボクは見つけ出す!」

 カプセルに遺された、美しい黒色のクワトロ・テールを手に取り、それを束ねるのに使われていた『太陽』、『星』、『月』、『ハート』の形をした髪留めを抜き取る。

「黒乃……どこかで見守っていてくれ……」
 ボクは彼女の遺品を、強く抱きしめた。

 

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