ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第02章・01話

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三十一世紀へようこそ

 悠久の時は、何時ものペースで時計の針を回し続ける。
その間も人類は相変わらず戦争をし、テロを行い、大勢の人間が死んだ。

 けれども、脳まで凍り漬けとなったボクには、幾星霜の時が流れたのかさえ知る術も無かった。

 『ドンドン』と何かを叩く音によって、『永い永い引き篭もり生活』が妨げられる。
「……うるさい……な。もう少し……眠っていたいんだが……」
(永きに渡って引き篭もった挙げ句、最初に浮かんだ言葉がこれとは、どれだけ怠惰なのか)

 それが冷凍睡眠カプセルの蓋を叩く音だというコトは、先程まで凍りついていたであろう脳みそでも、何とか理解が出来た。
「……今は……何年だ? アレから……どれくらいの時間が流れた? ここが……あの世で無ければ……かなりの未来であることは……間違いない……けどな」

 体の自由はまだ利かず、言葉さえ途切れ途切れにしか出て来ない。
「『冷凍マグロ』みたく……何年も凍りついて……いたんだから……仕方ない……か?」
 定まらない目の焦点を何とか固定し、手足の指を動かして体の調子を探ってみる。

「まだ……視界がボヤけてるケド……なんとか……目も体も……無事な様だ……」
 視界が次第に鮮明になって来る。
すると、降り積もった土砂に覆われたカプセルの蓋の向こうに、『人らしき影』が動いた。

「……誰か……居る……? この音の犯人……だな。黒乃……かな……?」
 冷たいカプセルの中でずっとボクは、彼女の温かい笑顔を望んでいた。

「……アレ、やっぱ人がいる!? 中に……人が入っているよォ!!」
 いきなり堆積物がガサッと払われ、人影がカプセルの中を覗き込む。
 顔は逆光で見えなかったが、少女の声である事は聞き取れた。

「やっぱ黒乃……だな。早くここから……出してくれ……ないか。……寒い……んだ」
 ボンヤリと見える少女のシルエットに、見覚えがある。
「うわっ、喋った! 待ってて。今出してあげるから……」

 少女はそう言うと、透明な蓋の前から姿を消した。
暫くの間、ボクは天井だけを見て過ごす羽目になる。
「まだ……かな? ……それにしても、廃鉱の天井ってこんなに……高かったか?」

 カプセルの中から見上げた天井は、周囲の岩壁が果てしなく上空へと続いていた。
その中央部は、暗闇へとフェードアウトしている。
「何年も経過して……地形が変化したのか? ……それとも……別の場所?」

「えっと、これかな? うえェ~違った! んじゃこれ……かも!」
 少し離れた場所から、少女の危なっかしい声が聞こえて来る。
「何……やってんだ……黒乃? 自分が作った……装置じゃ……ないか?」

「あ、タブンこれじゃ無いかな? やったぁ、開いた!!!」
 試行錯誤する少女の声は、どうやら正解に辿り着いたらしい。
カプセルの透明な蓋が開き、少女が中身のボクを、覗き込む。

「ふぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」
 岩壁と暗闇が支配する巨大空間に、少女の悲鳴が反響した。
「……ど、どうした……んだ、黒……乃? ……何か……あったのか?」
ボクは彼女の身が心配になって、動きの悪い上半身を必死に引き起こす。

「み、みみ、見てません! 見てませんよォ? わたしはな~んにも見てませんからッ!」
 少女はカプセルの脇で、背中を見せうずくまっていた。
顔を両手で押さえ、何故か必死に首を振っている。

『自慢のクワトロテール』が、空中で激しく振り乱れた。
「あの……黒乃……? 一体どうし……ちゃった……んだ?」
 ボクは力の入らない両足を、生まれたての子牛みたく踏ん張って、カプセルの外に出る。

「え? えっと、誰ですか『くろの』って? わたしはそんな名前じゃぁ……」
 振り返った少女は、偶然ボクの股間と目を合わせた。
「いッ……いやあああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
少女はその場で、失神してしまう。

「何を今さら……お互い裸だったじゃないか……? ……って、ア……アレ?」
 気を失った少女に近づいてみると、髪形こそ『奇麗なクワトロテール』であり、顔立ちもそこそこ黒乃に似ているものの、別人だった。

「……キミは一体……誰なんだ?」

 

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