ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第01章・03話

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ありふれたもの

 けれども黒乃は、大体正解と言ったのであって、ボクの答えは完全に正解では無かった。

「ただし、核融合反応によって生み出せるのは『鉄』までであって、それ以上の重たい物質は『β崩壊』によって造られるのよ。方法としては、加速器を使ってベリリウムを水銀に当ててやれば、金が生み出されると言われてるわ」
※参考文献:ナツメ社『元素のすべてがわかる図鑑』より。

「ホントに金が作れちゃうんだ! 錬金術ってホントにあったんだね?」 
 目を輝かせてはしゃぐ女子だが、彼女は単純に金が生み出せる事のみを喜んでいた。
「理論的には……ね。でも、例え生み出せたとしても、コスト面で採算が取れないわ」

「そっか~残念。でもォ、もしできれば凄いよね? 金がいっぱいで大金持ちじゃん!」
「それはどうかしら。大量に生成できてしまえば、金の価値は下がるわ」「え? なんでなんで?」
「物の価値なんて希少性で決まるのよ。『ありふれた物』に、何の価値も無いわ」

 そう言われても、解っていなさそうな女に、ボクが代わりに説明する。
「金にしろ、ダイヤモンドなんかの宝石にしろ、希少だから価値があるんだ。それが大量に生成出来るってなれば、きっと価値は暴落するハズなんだ」

「そうよ。ありふれた人間に、なんの価値もないのと同じ様にね」
 それは恐らく、ボクも含めた目の前の人間に向かって、言っているのだと思った。
黒乃の言葉には、今まで以上に苛立ちが込められている気がした。

「ハッ! お高く止まりやがって、何サマのつもりだ? 人間はまだ、金を自在に生み出せねえし、核融合とやらもまだなんだろ? 結局お前の言ってんのは、全部机上の空論じゃねえか!」
 怒りを爆発させたチャラ男が、机を叩いて時澤 黒乃を威嚇した。

「人類は既に、何種類もの人工元素を生み出しているわ。自然界に存在するウランを超える質量の物質。自然界には殆ど存在しないネプチウムなんかの希少原子をね! いずれは金の精錬だって……」
「テメーが見つけたワケでも無ェクセに、偉そうにベラベラと! いずれはだあ? いずれ他の偉い科学者サマが見つけ出すんだろ? お前じゃない他の誰かがよォ?」

「……なん……ですって!」
 時澤 黒乃は、真っ赤に染まった瞳でチャラ男を睨み付ける。

 彼女の瞳は普段は茶色いのだが、興奮すると光の加減なのか、目の中の毛細血管が膨張でもするのか理屈は知らないが、紅く染まるのだ。

「わたしだって、いつか『何か』を証明して見せるわ! アンタなんかに言われるまでも無い……。でなきゃ、わたしが存在する価値なんてどこにも無いものッ!!」  
 けれども時澤 黒乃が怒りを向けた先から、チャラ男と頭の悪そうな女子の姿は消えていた。

 それはチャラ男の戦略で、彼女はポツンと一人取り残されて、周りの嘲笑を買っていた。
科学の知識はともかく、人間関係に置ける戦いに置いては、チャラ男の方が遥かに勝っていたのだ。

「ねえアナタ。名前は?」彼女は、値踏みでもする様にボクを見る。
 周りの自分に対する感情など、一切気に留めていない様子だった。

「え? 群雲 宇宙斗だケド」その瞳の色は、穏やかな茶色へと戻っている。

「そう、アナタが宇宙斗なの? 名簿を見て、クラスにうすら寒い、変わった名前の人が居ると思っていたのよ。覚えておくわ」

 そう言うと時澤 黒乃は、教室の日常へと消えていった。

 

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