廃部勧告
それは、当然の結果として、起こるべくして起こった。
『部室棟の解体通告』及び、『所属クラブの廃部通知』が突然、オワコン棟の各部活に突きつけられたのだ。それに納得の行かない住人たちが、大挙して茶道部の部室入り口に押し寄せたのである。
なぜか茶道部に所属する、生徒会長・橋元 蒔雄(はしもと じゆう)に、抗議をするのが目的だ。
「どう言うことよ! 一学期で廃部しろ……だなんて、あんまりじゃない!」
頭に宇宙人の触覚みたいなカチューシャをした女の子が、激しくまくし立てる。
(未知との遭遇部・部長 愛澤 柚葉)
「ボクらの拠点(ベース)の部室棟までもが、解体だなんて。素直に、イエス・サーとは言えないな」
迷彩柄のスクール水着に、腰にガンホルダーを装備した少女も喰い付いた。
(水鉄砲サバゲ部・部長 栗林 伊吹)
「ナース服を学生服として採用させる我が部の野望は、まだ達成されておりませんわ!」
ナース服を着ていても、グラマラスとは正反対なプロポーションの、お姉さんも続く。
(ナース服・学生服化推進委員会・部長 香住 癒音さんだ)
「反対ガオ! 反対ガオ~! 絶対ぜ~ったい反対~ガオ!」
首長竜を模した帽子を被った幼女が、ガオガオ言っている。
(恐竜なりきる部・部長 海野 龍穂ちゃん)
「許可を出しておいてアレだケドよ。沙耶歌や学校側が、オワコン棟ごとキワモノ部を丸ごと潰そうとするのも、無理からぬコトだわ……」
橋元は、『コスプレパーティーの様相を呈する茶道部の入り口』を見て、頭を抱えた。
「……ん、何か言った? 橋元!」未知との遭遇部の部長、愛澤 柚葉が詰め寄る。
「いや、別に。それより柚葉。お前、語尾に『ポヨン』とか付けてなかったっけ?」
「う、うっさい、話を逸らすな! 今は廃部や解体の話をしてるんだ!」
「そうだガオ! 話を逸らすなガオ!」恐竜なりきる部の部長、海野 龍穂も参戦する。
各部活の部長だけでなく、構成員までもが橋元に激しく詰め寄っていた。
部室の慌ただしい喧騒を、外の廊下から確認する渡辺と絹絵。
「なんだか、大変なことになっちゃったッスね? ご主人サマ」
「……さながら、汚職のバレた悪徳政治家と、不正に納得のいかない市民団体といった様相だな」
「だからオレに言われてもだなあ……」
大勢のキワモノ部員の集中砲火を浴びた橋元は、ささやかな反撃を試みる。
「学校側で決まったコトなんだぜ? もう理事会も通って、工事の日程も決まってるんだってよ。生徒会がどうにか出来るレベルの話じゃないんだって!」
その一言が、廃部と部室棟の解体を同時に言い渡された、大勢の心に火を着けた。
「だったら何のための生徒会なのよ!」
「生徒の意見を反映させるのが、生徒会の役目っしょ?」
抗議の圧力は更に増し、集団真理も作用してか、各自が理性を抑えられなくなっている。
「……こりゃマズイな。険悪なムードにまでなって来てる。このままじゃ……」
橋元だけでは収集が付かないとみた渡辺が、助け舟を出す決心をした。
「こうして集まっていただいて、ホントに申しワケ無いんだが……」
橋元も含めた皆が、渡辺に注目する。
「見ての通り、ウチの部室も手狭なんでね。全員を部室に入れて話し合うのも無理があります。ここはどうでしょう? 各部の部長だけ出席してもらって、今後の対策会議を開きませんか?」
「そ、そうね」「少なくとも、作戦会議は開くべきか?」「りょうかいガオ」
怒り心頭の部員たちではあったが、渡辺の提案ももっともなのと、渡辺自身が茶道部の部長で、被害の当事者の一人でもあった為か、皆素直に従った。
渡辺と絹絵は、やっと部室に入る事ができた。
「サ、サンキュー、渡辺。助かったぜ」「まったく、火に油を注いで、どうすんだ」
渡辺と絹絵は、長い机をはさんだ橋元の前の椅子に座った。
「……ゴメンね。ホントは今日、ささやかながら、絹絵ちゃんの『新入部員歓迎茶会』をやる予定だったんだ。それが、こんなコトになっちゃって……」
申し訳無さそうに頭を垂れる渡辺を見て、絹絵は慌てる。
「ア、アチシなんかにお気を遣わないでいいッスよ。昨日、可愛いお茶碗まで買っていただいたのに……お気持ちだけで十分嬉しいッス!」
「……いや、改めて開くよ」渡辺は、藤色の抹茶茶碗の向こうに飾られた、写真立てを見た。
「ボクも、新入部員だった去年は、先輩方にお茶会を開いてもらったんだ。それで……やっぱうれしかったんだよ」「ご主人サマ……」
絹絵が、渡辺の心遣いに感動していた机の向こうで、橋元が呟く。
「どうせ、何を話し合ったって、決定は覆らないと思うぜ?」
「でも、努力だけはしないとな」「そ、そうっスよ!絹絵は、廃部阻止のためにここに来たっス!!」
「とりあぜず、一時間後。代表者がこの茶道部に集まるよう、連絡を入れておいた」
渡辺は、連絡を飛ばしたスマホを見せる。
「お前、余計なコトすんなよォ。会議で口撃に晒されんの、オレなんだぜェ!?」
橋元の嘆きは、かなりの間続いた。
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