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萌え茶道部の文貴くん。第二章・第五話

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翡翠色の信楽焼き

「滝川一益って武将なんて、戦の褒美に上野(こうずけ)一国と信濃の一部を与えられたんだ
けど、名物の茶器(珠光小茄子)の方が欲しかった……って嘆いたくらいなんだ」
「す、凄いッスね、茶道具って……ハッ! これから買いに行くのも抹茶茶碗……!?」
 絹絵は急に、手足をワタワタさせ始めた。

「やっぱダメっす! そんな高価なモノを、買っていただくワケには行かないッス!」
「残念ながら、そんな高価なモノじゃないよ、絹絵ちゃん。抹茶茶碗って言っても色々あって、今から買いに行くのはいわゆる『民芸品』ってヤツさ」「民芸品って、なんっスか?」

「解りやすく言い換えると、お土産かな? 大須も今や、外国からもかなり人が来るから、『日本らしいお土産』の一つとして売ってるんじゃないかな?」「お土産ッスか?」「でも、ちゃんとした手作りの茶碗だよ。日本人が普段、普通に使ってもいい物なんだ」

  雑多な店が並ぶ大須商店街を歩く、渡辺と絹絵。
「でも、最近は国内需要はあまり無いみたいでさあ。寂しい限りだよ」
「それは残念ッスね、ご主人サマ」絹絵も、寂しげな顔をしてくれた。

「だから『萌え茶』として、フィギュアと合わせてみたりね?」「効果あったっスか?」
「む、むしろ逆効果だとか、気をてらい過ぎてるとか、橋元は散々言ってやがったなぁ!」
「お、落ち着くっス、ご主人サマ。萌え茶、素晴らしいっス!」「アハハ、冗談だよ」

 渡辺は後輩の手前、平静を装う。「今日は、絹絵ちゃんにも布教しようって思ってね」
「……ふきょう……なんの宗教ッスか?」「いや、ホントの布教じゃなくて、自分が好きなコトを、他の人にも勧めるのを、ネットなんかでは布教って言ってるんだ」

 そうこうしてるうちに、二人は『目的の店』に着いていた。
「ここが抹茶茶碗のお店ッスか? なんかデッカイ壺が飾ってあるッス!」
「多分、『有田焼の壺』だね。陶磁器のうちの磁器で、『伊万里』の名でも有名な、九州の焼き物だよ。このお店は陶磁器全般や漆器も扱ってるから、目立つから客引き用に飾ってるんだね」

 渡辺は絹絵を連れて、店の奥へと進んだ。
「あらあら、いらっしゃいませ。今日は何にしますゥ?」
 陳列棚の向うから、店のおばちゃんが遠慮の無い声をかけて来た。

「えっと、抹茶茶碗を……」
「あらま! ま~ま~可愛いお客さんだこと! もしかして、こちらのお嬢さん用?」
「……ええ、まあ」「お嬢さんだなんて、て、照れるッス」「ゆっくり見てってね」

 おばちゃんは一通り喋り終わると、店の作業を始めた。
名古屋のおばちゃんは、大体どこもこんな感じだ。
商売慣れしてるのか、お客が商品を選ぶ時間をちゃんと作ってくれる。

 渡辺は、絹絵を抹茶茶碗の大量に置いてあるコーナーに案内した。
「どれにする? 流石にそっちの万単位のは買えないケド、こっちの二千円前後のからなら、好きなのを選んで良いよ」

「わああ! なんか、色んな色や、変わった形のが、いっぱいあるッスね! ……こ、これなんか可愛いかもッス! 野いちごみたいな絵が描いてあるッス♪」
 絹絵は、白い肌に薄く翡翠を流しかけたような色の、かなり小振りの茶碗を手にした。

「お? それは『信楽焼き』だね。滋賀県の焼き物だよ。ホラ、居酒屋や寿司屋の前なんかに置いてある、『タヌキの置物』で有名なんだ」
「……タ……タタ、タヌキッスかッ!」絹絵はどう言う訳か、急に慌てふためき出した。

「どうしたの? 絹絵ちゃん?」
「……なっ……なな……何でもないッス! でも、良く見たらこれ、二千四百円もするッス。もう少し手ごろなのにするッス!」
 渡辺は、茶碗を戻そうとする絹絵の手を制した。

「これにしちゃいなよ、絹絵ちゃん。こう言うのってさ、最初の直感が大事なんだ。それにこの抹茶茶碗、絹絵ちゃんにとっても似合ってると思うよ」
「ご……ご主人サマ」

 絹絵は頬を赤らめながらも、翡翠色の抹茶茶碗を手に、満面の笑みを浮かべる。
店のおばちゃんは手早く茶碗を包装紙に包んで、可愛らしい手提げ袋に入れてくれた。
ついでに、オマケの飴もくれる。

「わ~い、わ~い、ご主人サマからのプレゼントっす~! 一生大事にするッス!」

 絹絵が素直に喜んでくれてるのを見て、渡辺は一年前の自分を思い出していた。

「まったく、キミには可愛げというモノが足りないのだよ、フーミン。こ~ゆ~ときは素直に先パイに、甘えちゃいなさい」
 同じ店の同じ場所、少しだけ渡辺より小柄な先輩が、笑顔で語りかけてくる光景。

「……理屈っぽくて、可愛げの無い後輩……ですか。先輩、確かにオレは……」
 絹絵は渡辺の独り言を、意味もわからず聞いていた。

 渡辺は、喧騒渦巻く休日の大須を歩いたせいか、少し疲れていた。
「絹絵ちゃん。この店の裏に、『癒しスポット』があるんだ。行ってみない?」
 絹絵を、名古屋で有名な『中古買取量販店』の裏手にある、『とっておきの場所』に案内する。

「なっ、なんスかここ! 木が凄いッス! 心が安らぐッス!」
 そこは、三本の巨木が天高くそびえ立っていて、都会の真ん中なのにも関わらず、『霊的な何か』すら感じさせる場所だった。 

 

次回・三本の神木

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