ジェネティキャリパー
燃え盛る街に、群がるゾンビや、スケルトン。
死霊の王は、配下のアンデット軍団が舞人たち相手をしている間に、長い詠唱を必要とする『高位暗黒魔法』を唱え始めた。
「マズイよ、舞人くん! このままじゃ、とんでもない魔法が来ちゃう。何とか、アイツの詠唱を止めないと……」「で、でも、どうやって!!?」
蒼い髪の少年は、『闇の魔力を奪う力』でアンデットを無力化するものの、蘇った死体の数が余りにも多かった。
「舞人くん! わたしが甦生魔法を中断して、アンデッドをディスペルするから、キミは……」
「ダメだ、それじゃリーフレアさんが危険になる! 絶対、ボクが何とかするから!」
けれども言葉とは裏腹に、舞人に策は無く戦況は悪くなる一方だった。
「ククククク……これで終わりだ! この街もろとも、闇に消え去れィ!!!」
死霊の王『ネビル・ネグロース・マドゥルーキス』の髑髏の顔が歪んで、満面の笑みを浮かべる。
宝石の散りばめられた杖に、暗黒物質が集まり、高位暗黒魔法が完成させようとした瞬間……。
「受け取れ! ご主人サマよ!!」
少女の声が戦場に木霊する。
すると、舞人の前に一本の『おかしなパーツがゴテゴテ付いた剣』が突き刺さった。
「あッ、あの剣は……あの時の!?」
リーセシルはそれが、街の露店武器屋や、魔王城で見た剣と同じであることに気付く。
「サンキューな、ルーシェリア! これで行ける。覚悟しな、死霊の王!!!」
蒼髪の少年は空に舞うと、呪文を完成させる寸前の『黒いローブを着た骸骨』との間合いを、一瞬にして詰め『ガラクタ剣』を振り上げる。
「リーフレアさんや、街のみんなが味わった、苦痛や恐怖を知れッ!! 真っ二つにしてやる!!」
舞人は剣を一閃した。
「ヌオオォォォォーーーーーーッ!!?」
左右に体を分断された、死霊の王。
「……我が……死霊の王たる我が、こんな人間のガキにィィィーーッ!!?」
『ネビル・ネグロース・マドゥルーキス』の二つに分かれた身体は、自らが生み出した青白い炎が燃え盛る、街の闇へと落ちて行った。
「……助かったよ、ルーシェリア。剣を持って来てくれてアリガトな!」
少年が目を向けた先には、漆黒の髪の少女がいた。
「あ、あうッ!?」少女は、一瞬だけ顔を赤らめたが、直ぐにソッポを向く。
「フン……じゃ。ご主人さまに死なれたら、妾が困るでのォ。この姿のまま、人間の短い一生を終える気など、毛頭無いのでな」「そっか、そっか」
舞人は、素直で無いルーシェリアの頭を、ポンポンと叩く。
「有難う……舞人くん! 妹が……リーフレアが、目を開けてくれたよ!!」
薄いピンク色の髪の少女が、眼鏡をかけた同じ顔の少女を抱えながら、目に一杯の涙を湛えて舞人に礼を言った。
「うん! 良かった、ホントに……」蒼髪の少年は、ホッとした表情で答える。
「まだ、終わってはいないか」舞人は、ボソリと言った。
街に残されたアンデットの群れは、主が消えても消滅せず、ただ生者の生き血を求め彷徨い歩く。
すると城から、『青とシルバー』の兵装と、『黒とオレンジ』の兵装をした、二つの軍に所属する兵士たちがやって来て、アンデッドの駆逐を開始する。
また、アンデッドを土に還す『ディスペル』によって、多くの死者を安息に弔った。
「オフィーリア王国と、フラーニア共和国の軍隊だね」リーセシルが言った。
「とくに青とシルバーの兵士たちは、回復魔法を操れるクレリックや、プリーストの血を引く者が多いようじゃのォ。あちこちで、ケガをした住人の手当てをしておるわ」
「アレは、プリムラーナ・シャトレーゼ様の兵士だね。流石だなあ」
「そ、そ奴は、女か?」「そうだよ。アソセシア一の美女と評判の、女将軍さ」
「ムムム……」眉間にシワを寄せる、ルーシェリア。
「これで焼き出された街の人たちの、回復は任せられる。リーセシルさんも疲れたでしょ? リーフレアさんも、まだ安静にしてた方がいいよ」
アンデットは駆逐され、真夜中の戦いが終って、辺りには多くの兵士や人々が集まっていた。
「……舞人さん。……貴方は一体……何者なのですか? それに、背中の剣……」
妹に精彩が無いことを姉は心配したが、妹は息を切らしながらも、舞人に質問する。
「そ、それは……」
舞人は、ルーシェリアを見たが、漆黒の髪の少女は目を逸らした。
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