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萌え茶道部の文貴くん。第二章・第一話

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雨の日の部室

 次の日は、雨だった。
梅雨入り間近というコトもあり、ジトジトと長く降り続きそうな予感がした。

 午前中の授業を終え、午後の睡魔を何とかやり過ごした渡辺は、旧部室棟に向う。
「イヤな雨だな。ただでさえ憂鬱なのに、こんな日は……」
命運が尽きかけている古びた部室棟は二階建てで、その一階に茶道部の部室はあった。

「案の定ではあるが、雨漏りってレベルじゃないな」
 旧部室棟は、一応は鉄筋コンクリート製なのだが、築後五十年が経過した現在、いたるところで雨漏りがしていた。

「昨日、あれだけ憤ってみたものの、この惨状を目の当たりにするとな。計画を阻止する有効な手立てなんて、あるのかな?」
 渡辺は、薄暗い蛍光灯が点滅する廊下から、茶道部の真っ暗な部室に入る。

「……とりあえず、灯り灯りっと。どの辺だっけな、スイッチは?」
 何とかスイッチを探り当て、それを押す。だが、古びた蛍光灯と言うヤツは、スイッチを入れてもすんなり点くハズも無く、点灯管がパカパカと光と闇を繰り返した後、やっと部屋を明るく照らした。

「うわあ、やっぱ中もダメだったか。一階でこれじゃ、上の階はもっと悲惨なだろうな?」
 更に劣悪な境遇の同居人たちを、哀れむ渡辺。
「壁から水が入りこんでいるのか? よくもまあ、一階でこれだけ雨が漏れるな」

 スチール棚に大量に置かれた、美少女フィギュアの飾られた抹茶茶碗の、茶碗だけを持ち出す。
「お前たち、出番だぞ。本来の使用目的では無いが、そこは勘弁してくれ」
床に散りばめられた抹茶茶碗たちは、雨受けとなって水琴の如く澄んだ音色を奏で始めた。

 抹茶茶碗と雨漏りが共演して、透き通った高音の演奏会が始まった部室。
渡辺は一風変った抹茶茶碗で、茶を点て始める。それは『藤色』、もしくは『薄いバイオレット』とでも表現すべき色彩の抹茶茶碗だった。

「……先輩、この抹茶茶碗が好きでしたよね……」
 シャカシャカと激しく茶筅に揺らされ、泡立つウグイス色の液体。
茶筅がどけられると、藤色の抹茶茶碗の中で、緑の渦がゆっくりと回転した。

 「先輩。この茶碗を買ってくれたときのコト……覚えてますか?」
 寂しさを含んだ声で呟くと、一枚の写真が収まった写真立ての前に茶碗を置いた。

 沸き立つ抹茶の香りが、渡辺の意識を過去へと飛ばす。

「この藤色の茶碗と、抹茶のコントラストが不思議な趣きを醸し出すと思うわ」
 優しい女性の声が言った。

「でも先輩。この茶碗、このヘンが汚れちゃってますよ?」文貴の声が反論する。
「確かに淡い藤色がキレイだとは思いますが、この一点の汚れが惜しいですよね」

「でも、ホラ。こうすれば……さ? カリストとか海王星とか、そんな感じに見えない?」
 写真立ての中の人物が、渡辺の記憶の中で屈託の無い笑顔を見せる。

「え? カリストって木星の衛星の? う~ん、言われてみれば、見えなくも……無い?」
「見えるでしょ! もっとこう……心の目で見るって言うかさ?」
「なんですか、心の目って。そんな設定、今どき少年マンガでも中々使われませんよ」

「もう! フーミンは、何でも頭で考え過ぎだよ~」
 艶やかな蒼味がかった黒髪が、彼女の仕種のたびに揺れる。

「『カリスト』に……海王星は英語だと確か『ネプチューン』だから~?」
 藤色の抹茶茶碗を回転させながら、真剣なまなざしを向ける黒髪の美少女。
「この子は……『カチュリーン』ね」

「先輩。せっかく買っていただけるのでしたら、命名するにしても、もっと茶器らしい名前にして下さいよ! なんですか、『カチュリーン』って?」

「だ・か・ら、心の目で見るの! 日本の美の基本は、『見立て』だよ、フーミン」

 雨の降りしきる窓を背景(バック)に、無言で写真立ての前にたたずむ渡辺。
「……先輩、オレがダメなばっかりに茶道部は……。すみません……」

 しばらくして渡辺は、藤色の茶碗に入った冷えた液体を、一気に飲み干した。

 

次回・茶道部の新入部員

萌え茶道部の文貴くん。第二章・第ニ話 - ラノベブログDA王