ある意味勇者の誕生
「……キ、キミたちが、覇王パーティーのリーセシルと、リーフレア?」
舞人の前に立っていたのは、みずぼらしい田舎娘ではなく、覇王パーティーが誇る双子司祭だった。
「そうだよ。今回は秘密の捜査でキミを……ムゴォ!?」
妹は、咄嗟に姉の口を封じる。
「な、なんでもありませんわ。それより、今の襲撃で被害に遭われた方々の、治療に当たらないと……」
リーフレアの丸いメガネに映った少年は、目を輝かせてる。
「高位の司祭であるリーセシルさんたちなら、回復魔法も相当なレベルのモノを使えるんだよね? みんなに知らせて、怪我人を集めて来るから待ってて!」
少年はそう叫ぶと、炎の中を駆け回って、ことの成り行きを街の皆に知らせ始めた。
「ホントに……アレはただの『人の良い子』だね~」
「そうですね、リーセシル姉さま。恐らく、他人の空似だったのでしょう」
年下の少年が頑張る姿を見守る姉妹は、いつの間にか優しい表情になっていた。
「え……?」
瞬間、炎の中から光が瞬いたかと思うと、眼鏡の少女の左胸を貫く。
「カハッ!!?」
鮮血を巻き散らせて、崩れ落ちるリーフレア。
「リーフレア!?」
倒れる妹を、必死に抱き留める姉。
「いやああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッ!!?」
妹の左胸に開いた穴からは、大量の血があふれ出し、少し前まで穏やかだった表情は、急速に青ざめ、死相へと変わっていった。
「ククククククク、良き……良き悲鳴ぞ!!」
炎の中から、骨辺やら布切れやらが一か所に集まり、再び『骸骨の魔王』の姿に形成した。
「これこそが、死霊の王たる『ネビル・ネグロース・マドゥルーキス』が、地の底で求めていたモノよ! 死にゆく妹に、絶望するがいい!!」
「……お前、生きて……? よくも妹を……リーフレアをこんな目に遭わせて!!?」
姉は、血まみれの妹をギュッと抱き締めながら、骸骨を睨みつける。
「高位の司祭のようだが、前衛も持たずに我の前に現れたのが運の尽きよ!」
姉は、急激に冷たくなっていく妹の容態を心配しながらも、現状の対処法を考える。
(……確かに、長い詠唱を必要とする呪文が得意なわたし達姉妹にとって、前衛は不可欠! あの再生能力からしても、低位の攻撃魔法じゃ役に立たない)
「ど、どうすれば……早く来て、クーレマンス! このままじゃ、リーフレアが……!?」
強敵を前に、回復魔法も攻撃魔法も詠唱できない自分に、無力さを感じるリーセシル。
「次はお前の番だ。その魔力からして、復活・甦生の呪文も操れるのやも知れぬが、お前も死ねば、妹を蘇らせる者はおるまい?」
「クッ!?」死霊の王の見立ては、図星だった。
「さあ、姉妹仲良くあの世へ送ってやるわ! ……死ね!!」
骸骨の指から発せられた閃光は、一直線にリーセシルの顔面に向って煌く。
「……ごめん、リーフレア……貴女を……助けてあげられなかった……」
しかし閃光は姉妹の直前で逸れ、方向を変えて近くの壁に弾け飛んだ。
「グヌウ! 誰だ……我の邪魔をするのは!?」
双子姉妹の前に、彼女たちを守るように立ちはだかった少年が叫んだ。
「お前か? リーフレアさんをこんな目に合わせたのはッ!!」
「……シャロ? 来てくれたの?」
リーセシルは、薄いピンク色の髪を靡かせて、顔を上げる。
けれども……そこに居たのは、彼女が望んだ『赤髪の英雄』では無く、『蒼いボサボサ髪の年下の少年』だった。
この時、シャロリュークは、既に王都に旅立っていた。
「キミは……舞人くん! キミが、あいつの攻撃を……止めたの!?」
「それより回復魔法を! こいつはボクがなんとかするから!!」
少女は戸惑ったが、それが大切な妹を救える唯一の選択肢に思えたので、言われる通りに従った。
「痛ってェ~! まだ腕が痺れてやがる」
舞人は、死霊の王の放った閃光を、弾き飛ばした右手を押さえる。
「……けどなあ。リーフレアさんが味わった痛みは、こんなモンじゃあ無かったハズだ! 覚悟しな、骸骨!!」
「ククク……勇ましいモノよ。だが、我が『閃光』を、片手で弾き飛ばすとは……貴様一体何者だ?」
「ボクか? 『ある意味勇者』……らしいぜ!」
蒼髪の少年は、力強く胸を張った。
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