ラノベブログDA王

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萌え茶道部の文貴くん。第一章・第二話

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文貴と狸

 その日の帰り道、渡辺 文貴は駅までの通学路を自転車で降っていた。

 『愛理大学付属名京高等学校』は、小高い丘の上と下の二箇所に校舎が建っている。
 渡辺の通う校舎は丘の上にあり、下校時間には夕焼けで紅く染まる名古屋の街が一望できた。

「この通学路も、朝は恐ろしく登るのがしんどいが、降りは楽だわ~」
 丘の上の校舎から続く急こう配の坂は、自転車を漕がなくても自然に彼を下まで運んでくれる。

「……ウチの学校、少子化の影響なのだろうが、数年前に二つの高校が合併して作られたからな。おかげで丘の上と下に校舎があるっていう、おかしな立地なんだよ」
 重力に身を任せ、風の中を颯爽と進む自転車。

「それにしても、男子校と女子高を無理矢理合併させておいて、校舎はそのまま使うなんて無駄が多いよな? 予算削減の効果も、これじゃ殆ど無いじゃないか」

 車通りはあるものの、朝の登校時間以外は余り人もいない道なので、独り言を呟きながら自転車を漕いでも全然平気だった。
「……ちなみに名古屋では、自転車を『ケッタ』……もしくは『ケッタ・マシーン』と呼ぶのだ」

 本気でどうでもいい事を呟きながら『ケッタ』を転がしていると、坂道の先でトラックが急ブレーキをかけて停まった。
何かにぶつかったような小さな音が、聞こえた気がした。

「なんだろう?」……と思って近づいてみると、トラックは走り去ってしまった。
 自転車を降り、トラックが停まっていた場所まで駆け寄ってみる。
 そこには一匹の小さなタヌキが、大量に血を流して横たわっていた。

「……この辺の林って、タヌキも住んでいるのか?」
 外れとはいえ、大都会である名古屋に、狸が生息している事に驚いたが、狸の様態を確認する。
「可愛そうに、かなりの大ケガだ。このままじゃ、助からない……よな?」

 好奇心で駆け寄ってみたものの、これからどうしたモノだろう? ……と悩んだ。
タヌキは弱ってはいたものの、わずかに息があったからだ。

「ここは、保健所に連絡するべきか? ……いや、もしかしたら、このまま殺処分されてしまう、なんてことになるかも知れない……」

 渡辺は、自転車の前カゴに瀕死のタヌキを乗せ、動物病院に運ぶことにした。
 スマホで動物病院を検索して連絡を取り、瀕死のタヌキを担ぎ込んだ後、家に帰った頃には、夜の十時を過ぎていた。

「……ヤレヤレ、あの近くに病院があったら、こんなに遅くはならなかったろうに」
 渡辺は遅めの夕食を食べると、風呂に浸かった。

「あのタヌキ、助かるといいな。動物病院の獣医さんも感じのいい人だったし、オレに出来るのは回復を祈ってやることくらいだ」

 その日、渡辺は少し満足した気持ちになって布団に入った。

 

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