腑に落ちぬ幕引き
「アイツがこの城の主、大魔王『ルーシェリア・アルバ・サタナーティア』だと!?」
霧の向こうの少年らしき影に、疑問を呈する赤毛の英雄。
魔王の名前や異名については、魔物たちの間に知れ渡っていが、その容姿については結局のところ、対峙してみないコトには解らない場合が多かった。
「ねえシャロ。本当にあの少年が、アタシたちの討伐目標である魔王なのかしら?」
後から追ってきたメンバーも、カーデリアと同様の意見だった。
「確かにわたし達は、魔王について名前と二つ名以外は、正確な姿も知らないですが……」
「でもさ、リーフレア。あのコの背負っている『あの剣』……」
リーセシルだけは、少年ではなく剣の方に注目していた。
「うわ、なんだ……目くらましか!?」
クーレマンスの叫びが、リーセシルの言葉に覆い被さる。
『異様なまでに深い霧』自体が光を発し、一行は完全に視界を奪われていた。
「マズイぜ、罠か!?」
「みんな固まって……お互いの位置くらい解かるでしょ!?」
「了解です、カーデリアさん。姉さま、背中を合わせ防御陣形ですよ!」
「う、うん……」
リーセシルも、少年の持つ剣を気にはなったが、妹の指示に従う。
「ムッ。なんだ、アレは……!?」
一瞬、シャロリューク・シュタインベルグだけが、おかしな剣を背負った少年の傍らに、『黒髪の紅い目をした少女』がいるのに気付いた。
けれども、それは直ぐに霧が放つ光に飲み込まれる。
覇王パーティーが互いに背中を合わせたまま、1分ほどが経過する。
「今、少年の傍らに黒髪の少女が居たように見えたが……」
霧が晴れる頃には、二人の姿は何処かへと消えていた。
「まったく、ワケわかんねえぜ。あの少年と少女は、何処へ行った!?」
赤毛の英雄が自問に答える前に、主を失った城は激しい揺れに襲われる。
「ちょ、ちょっと、何よこの揺れ!?」
「いつものヤツだろ。魔王の魔力が無くなった途端、城が崩れるって定番のお約束」
焦るカーデリアに、呑気に答えるシャロリューク。
「でもでも、魔王なんて居なかったじゃない。居たのは、ヘンな剣を持った少年だけで……」
「悠長なコト言ってる場合じゃないです、姉さま。部屋の天井が、崩れて来ました!」
「やっべ、考えるのは後だ。城が崩壊する前に脱出しね~と、みんなペシャンコだぞ!」
覇王パーティーは魔王の部屋を出ると、直ぐに別動隊と合流して来た道筋を全速力で遡った。
「どけどけ、どきやがれ~~!!」
クーレマンスは、自慢の怪力と『ヴォルガ・ネルガ』を使って、一行の頭上に降り注ぐ壁やら天井だったモノの残骸を払いのける。
兵士の最後の一人が城門を出た瞬間、魔王の城は爆音と共に跡形も無く崩れ去った。
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