赤毛の英雄
爆炎魔法が炸裂した異空間の闘技場に、静けさが戻る。
「巨人は倒せた。ですが部下を……多くの部下を失ってしまった」
筋肉男の小脇から抜け出した隊長が、周りを見渡した。
「お前たちの犠牲は、決して無駄にはしない!」
辺りには戦斧や槌で砕かれ、肉片となった兵士の亡骸が横たわっている。
「じゃあ、今度は蘇生魔法だよ」
「はい、姉さま!」
薄いピンク色の髪の双子姉妹は、犠牲となった兵士たちの蘇生を開始した。
「シャ、シャロリューク殿。蘇生魔法はかなりの魔力を消費すると聞きます。兵士たちには申し訳ないが、ここは先に進むべきでは!?」
「あ~、軍隊の隊長とすりゃあ、そう考えるんだろうがよォ」
赤毛の英雄は、自慢の赤毛をポリポリ掻きながら面倒臭そうに答える。
「あのコたちの魔力はハンパないのよ」
仕方なく、カーデリアが再び口添えをした。
「姉のリーセシルは召喚魔法のエキスパートである『サモニング・ビショップ』、妹のリーフレアは、魔力力場の構築のエキスパートの『エレメンタル・ビショップ』よ。攻撃魔法だけじゃなく、甦生魔法もお手の物だわ」
「ま、またミノタウロスの群れが!?」
すると、闘技場の魔物の投入門が開き、新たな巨人が姿を現した。
「サイクロプス、ギガンテス、それにヘカトンケイルまで居やがる!」
再び出現した巨人の群れに、驚愕する生き残りの兵士たち。
「今直ぐ、蘇生を中止して、ここを離れるべきでは……!?」
「オレたちは、冒険者なんだ。パーティーのメンバーが減れば、パーティー全員が危機的状況に陥る。ま、助けられるのに助けないって選択肢はねぇだろ?」
「です……が……」
けれども隊長は、それ以上の提案を続けることが出来なかった。
「中止する必要なんて、ねェよ。また少し、遊んでやっかな~?」
英雄の発する覇気が、それを許さなかったのだ。
数分後、投入された魔物は全て、灰塵と帰す。
その全てが、赤毛の英雄・シャロリューク・シュタインベルグの持つ覇王剣、『エクスマ・ベルゼ』の炎によって焼かれたモノだった。
「シャロリューク様、兵士たちの……」
「蘇生も回復も終ったよ~」
双子司祭が、甦生し肉体を取り戻した兵士たちを連れてくる。
「シャ、シャロリューク殿。双子の司祭殿にも、心より感謝を致します!!」
隊長はこのとき初めて、彼らが真の英雄なのだと実感した。
強敵を退けた一行は、次の部屋を目指した。
覇王パーティーは、次の部屋でも、更に次の部屋でも死闘を繰り広げる。
「兵士たちが、明らかに成長している。しかも、これ程の短期の間に……」
ニャ・ヤーゴ軍の別働隊も、覇王パーティーと戦闘を共にする度に力をつけ、オーガやリザードマンなら一人でも倒せるようになっていった。
「確かに双子司祭殿の回復魔法が、ある安心感はあるが……やはり要なのは隊長か」
別働隊を率いる隊長は、英雄シャロリューク・シュタインベルグの統率能力の高さに、感嘆と溜め息を同時に漏らす。
「どうやらココが、正真正銘の魔王の部屋みてーだな」
「……とは言え、流石に疲れたわね」
ようやく魔王の間の、扉の前に立った時には、覇王パーティーにも疲労の色が有り々々と見えていた。
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