円形闘技場の死闘
カーデリアの活躍により、入り口付近(エントランス)の魔物を全滅させた覇王パーティーは、次の部屋の扉を開けた。
そこは部屋と言うよりは円形闘技場(コロッセオ)と呼ぶに相応しく、高い壁が円を描くようにそびえている。
一行のいる中央広場は、観客の入っていない薄暗い観客席に囲まれていた。
「ど、どうして城の中に巨大な闘技場が?」
隊長の現実的で真っ当な質問に、リーフレアが答える。
「時空が歪められているのです。ここは魔王城なのですから、これくらいの空間ギミックは、仕掛けられていて当然なのです」
それは、知的で見識のある司祭(ビショップ)らしい言葉だった。
「いつも、色んな趣向で出迎えてくれるわよね。魔王って、どいつも余程ヒマなのかしら?」
カーデリアもリーフレアに同意する。
「ねえ……上に、何かいるよ。カーデリア、リーフレア」
「ホントですか、姉さま!?」
姉の言葉に眼鏡の妹は、漆黒の天井を見上げた。
「なな、一体何がッ!?」
薄暗い闇の中で2つの赤い光が輝き、一行を睨みつけている。
同時に、鼻を突く強烈な獣臭が辺りに漂った。
「やばい、アレは……そんな!」
「ミ……ミノ、ミノタウロスだッ!?」
怯える別働隊の兵士たちの前にそびえ立ったのは、身長三十メートルはあろうかという、雄牛の頭を持った巨人だった。
「しかも、一匹だけではありません。十匹はいますぞ!!」
「そ、それに一つ目のサイクロプスや、無数の手を持ったヘカトンケイルまで混ざっております!」
隊長や兵士たちは、その場で腰を抜かしてしまう。
牛頭のミノタウロスを筆頭にした巨人の群れが、一行に向かって地響きを上げながら迫り来る。
兵士たちにとってそれは、地獄の蓋が開いたかの様な光景だった。
「うわあああああッ!?」
「こ、殺される!」
牛頭の巨人の、狂気をたたえた血溜まり色の瞳が光った。
「斧で、攻撃して来るぞ!」
クーレマンスは叫ぶと同時に、隊長を小脇に抱えて跳ぶ。
その瞬間、ミノタウロスが手にした巨大な戦斧が、地面に向けておもいきり叩きつられける。
「ぎゃああああああーーッ!」
「うげああああぁぁぁあッ!!」
ミノタウロスの一閃は、闘技場に巨大な地割れを深々と刻み、壁までをも破壊した。
砂ぼこりが収まると、避けきれずに犠牲となった何人かの兵士が、死骸となって散乱していた。
「すまん、部下たちよ。もはや、何人が犠牲になったのかも解らん」
ミンチとなりバラバラになった部下たちを前に、肩を落とす別動隊の隊長。
「やれやれ。魔王の城ん中だってのに、闘技場でデカ物を相手にする羽目になるとはな。グラディエイターにでも、なった気分だぜ」
炎の剣を背中の鞘に納めようとする、シャロリューク・シュタインベルグ。
「な……!?」
クーレマンスに抱えられたままの隊長が、赤毛の英雄に目を移す。
彼の背後の闘技場には、少し前まで巨人の姿をしていた、巨大な3本の火柱が立っていた。
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